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〈闘牛技〉 5: 勇壮なモーロ人ガスールは、規則に従って牡牛を槍で突いた最初の男 (The Spirited Moor Gazul is the First to Spear Bulls According to Rules. Plate 5 from "La Tauromaquia")

フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス (Francisco José de Goya y Lucientes)

フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテスによる連作版画集『闘牛技』より、第5番「勇壮なモーロ人ガスールは、規則に従って牡牛を槍で突いた最初の男」は、スペインの国民的催事である闘牛の歴史を紐解く一場面を描き出しています。この作品は、闘牛の起源と発展におけるモーロ人の役割に焦点を当て、その伝統の勇壮さと歴史的背景を簡潔に示唆しています。

作品の姿と内容

画面の中央には、二頭の馬と一頭の牡牛が、薄明かりの中に浮かび上がるように配置されています。左側には、槍を構えたモーロ人騎士ガスール(Gazul)が馬に乗り、右から突進してくる巨大な牡牛を迎え撃つ姿が描かれています。牡牛は低く頭を下げ、角を突き出す瞬間を捉えられており、その筋肉の緊張感が伝わってきます。ガスールの後ろには、もう一人の人物が馬に乗り、補助的な役割を担っているようにも見えます。全体的に、強いコントラストと荒々しい筆致が特徴的で、深い闇から急に光が差し込むような劇的な演出が施されています。背景は簡素に処理され、遠景には観客らしき人々の姿がシルエットでわずかに示唆されていますが、視線は明確にガスールと牡牛が繰り広げる緊迫した瞬間に集中しています。モノクロームの画面でありながら、エッチングとアクアティントが織りなす濃淡のグラデーションによって、見る者の想像力を掻き立てる豊かな情景が表現されています。

背景・経緯・意図

この版画は、ゴヤが1815年から1816年にかけて制作し、1816年に33点組で出版された銅版画集『闘牛技』(ラ・タウロマキア)の一部です。ゴヤは若年期から熱心な闘牛愛好家であり、自身の肖像画でも闘牛士の衣装をまとった姿を描くなど、生涯にわたり闘牛を主題とした作品を数多く手がけました。当時は宮廷での仕事が少なく経済的に不安定だったため、宗教画を除けば比較的需要が期待できた闘牛版画の市場に目を向けたという、現実的な制作背景も指摘されています。本連作は、大きく三つの部分から構成されており、冒頭の14点は、古代からイスラム支配下を経て中世の騎士道的祭典へと移行する闘牛の歴史を描いています。この第5番は、その中でもモーロ人(イスラム教徒のイベリア半島住民)が闘牛の技法や規則の確立に貢献した初期の段階を表現しており、スペイン文化における闘牛の奥深い歴史的ルーツを示そうとするゴヤの意図がうかがえます。また、この時期は『戦争の惨禍』が制作されていた時期と重なっており、単なる娯楽としての描写に留まらず、闘牛の持つ暴力性や悲劇性といった側面への批判的視座も込められていると解釈する研究者もいます。

技法や素材

この作品は、エッチング、アクアティント、バーニッシャー、ドライポイントといった複数の銅版画技法を組み合わせ、簀の目(すのめ)紙に刷られています。エッチングは、銅版に描かれた線が酸によって腐食されることで凹線となり、インクが深く保持されることでシャープな描線を可能にします。アクアティントは、粉末状の樹脂を銅版に付着させて腐食させることで、水彩画のような柔らかな濃淡の面を表現するのに用いられます。これにより、漆黒から淡い灰色までの幅広い階調が生まれ、作品に深い陰影と奥行きを与えています。また、ドライポイントは、鋭利な針で直接銅版を引っ掻くことで、線の両脇に銅のまくれ(バリ)が生じ、そこにインクが入り込むことで、独特のビロードのような柔らかな太い線を生み出します。バーニッシャーは、既に腐食された部分を磨くことで、版の調子を明るくしたり、グラデーションをつけたりする際に使用され、これら多様な技法が組み合わされることで、荒々しくも繊細なゴヤ独特の表現が実現されています。

意味

作品のタイトルにあるモーロ人ガスールは、スペインにおける闘牛の歴史において、規則に従って槍で牡牛を突いた最初の人物と伝えられる英雄的存在です。この版画は、闘牛が単なる野蛮な見世物ではなく、特定の技法や作法に基づいた伝統として確立されていく過程を象徴的に示しています。ガスールがモーロ人であることは、イスラム教徒がイベリア半島を支配していた時代に、彼らの文化が闘牛というスペイン固有の伝統に深く影響を与えた歴史的事実を反映しています。闘牛は、勇気、力、そして運命に立ち向かう人間の姿を象徴すると同時に、その根底には暴力と死の不可避性が横たわります。ゴヤは、この作品を通じて、単に歴史の一場面を再現するだけでなく、人間と自然、生と死が交錯する闘牛という祭典の多義的な意味を問いかけていると考えられます。

評価や影響

『闘牛技』シリーズは、1816年の出版時には商業的な成功を収めることはできませんでした。しかし、現在ではゴヤの四大版画集の一つとして、『ロス・カプリーチョス』や『戦争の惨禍』、『妄(もう)』と並び称される重要な作品群と位置づけられています。このシリーズは、闘牛というスペインの伝統的なテーマを扱いながらも、そのドラマ性と批判的性格において『戦争の惨禍』に通じるものがあると評価されています。ゴヤが描いた闘牛は、単なる美学的な描写に留まらず、ときに不必要で不条理な人間の死をも含み、当時の他の闘牛版画とは一線を画しました。この人間と牡牛の間の残忍な戦いに焦点を当てる手法は、後のロマン主義の画家たち、特にウジェーヌ・ドラクロワなどに強い影響を与え、暴力や情熱といった人間の根源的な感情を表現する上での先駆的な役割を果たしました。ゴヤのこの連作は、単なる風俗描写を超え、見る者に深い存在感を抱かせる芸術作品として、美術史において確固たる地位を築いています。