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まないた皿 Mana-Ita (Chopping Board)

ジャネット・リーチ Janet LEACH

ジャネット・リーチの「まないた皿」は、イギリスのセント・アイヴスに拠点をおいたリーチ工房で制作された陶器作品です。日常生活に根差した「用の美」を追求したリーチ工房の精神を体現し、素朴でありながら洗練された造形に、手仕事の温かみが息づいています。

作品の姿と内容

この作品は、約40.5センチメートルの横幅と25.0センチメートルの奥行きを持ち、高さは約6.0センチメートルの比較的平坦な形状をしています。その名が示す通り、日常で使われる「まな板」を思わせる長方形に近い板状の形態を基本としつつも、四隅や縁(ふち)には手仕事によるやわらかな丸みが与えられています。素材である陶器(ストーンウェア)は、焼成によって得られた自然な土の色合いが基調となっており、具体的な釉薬の種類は不明ですが、マットで落ち着いた質感、あるいは控えめな光沢を帯びた、実用的ながらも味わい深い表面を見せていると推測されます。素地の荒々しさや土の粒子感が、ざらつきのある手触りとなって感じられるかもしれません。表面には、陶工が土を扱った際の指の痕跡や、成形時に生じたわずかな歪み、焼成時の窯の炎によって偶然に生まれた色むらや斑点など、一つとして同じものがない手仕事の個性が刻まれていると考えられます。特定の装飾や絵付けは見られず、むしろ素材そのものの表情と、素朴な形態が持つ美しさが主題となっています。

背景・経緯・意図

ジャネット・リーチ(1918年-1997年)は、カナダに生まれ、1950年代にイギリスの有名な陶芸家バーナード・リーチの息子、ジョン・リーチと結婚し、彼が共同設立したセント・アイヴスのリーチ工房の一員となりました。バーナード・リーチは、日本の濱田庄司(はまだしょうじ)との交流を通じて「民藝運動(みんげいうんどう)」の思想に深く共感し、「用の美」を提唱しました。ジャネット・リーチもまた、この工房の哲学に影響を受け、実用的な器の中に美を見出すことを追求しました。作品が制作された1969年頃は、リーチ工房がその活動を継続し、国際的な評価を確立していた時期にあたります。当時の社会は大量生産品が普及し始めていましたが、リーチ工房は手仕事による温かみと、日々の生活に寄り添う工芸品の価値を再認識させる役割を担っていました。ジャネット・リーチは、義父バーナード・リーチの思想を継承しつつも、自身の感性を通じて日常の道具に新たな命を吹き込むことを意図していたと考えられます。この「まないた皿」は、食卓で使われることを前提とした皿でありながら、その形状に日常の道具であるまな板のイメージを重ねることで、使い込まれることによって得られる美しさや、生活の中に溶け込む芸術のあり方を示そうとしたと推測されます。

技法や素材

「まないた皿」に用いられている素材は、陶器(ストーンウェア)です。ストーンウェアは、通常1200℃以上の高温で焼成される陶器の一種で、その結果、ガラス化が進み、非常に硬く、吸水性が低いという特徴を持ちます。この特性により、食器として実用性に優れ、耐久性が高く日常使いに適しています。リーチ工房では、伝統的な蹴りロクロや手びねり、たたら作りといった手作業による成形技法が多用されていました。この作品も、たたら作りという、粘土を板状に伸ばして成形する技法が用いられたと考えられます。この技法は、板状のまな板のような形状を作るのに適しています。釉薬については具体的な記述がないものの、リーチ工房の作品には、灰釉(かいゆう)や鉄釉(てつゆう)といった、天然の素材を用いた素朴な釉薬が多く使われていました。これらの釉薬は、焼成時の窯の温度や炎の当たり具合によって、一つとして同じものがない豊かな表情を生み出します。ジャネット・リーチは、素材の持つ自然な色合いや質感を最大限に引き出すことを重視し、過度な装飾を排することで、ストーンウェア本来の持つ力強い魅力を表現しています。

意味

「まないた皿」という作品名は、日常の道具である「まな板」と、食事を盛る「皿」という二つの機能を示唆しています。この組み合わせは、民藝運動が掲げる「用の美」の思想と深く結びついています。すなわち、特別な鑑賞のためではなく、日々の生活の中で実際に使用されることで、その美しさが真に理解されるという考え方です。まな板は、食材を切り、料理の下準備をするための道具であり、家庭の台所において不可欠な存在です。その素朴で機能的な形状を皿に応用することで、ジャネット・リーチは、単なる機能を超えた美、そして日常の営みの中に宿る精神性を表現しようとしました。この作品は、豪華さや装飾性とは異なる、手触りや使い心地といった感覚を通じて、素材の温かさや手仕事の尊さを伝えています。また、東洋の美意識、特に日本の禅の思想や茶道の精神に見られるような、簡素さの中に見出される奥深さや、不完全さの中に宿る美を体現しているとも解釈できます。

評価や影響

ジャネット・リーチは、バーナード・リーチと濱田庄司によって確立された「リーチ・ポッタリー」の伝統を継承しつつも、自身の作品において独自のスタイルを確立しました。彼女の作品は、リーチ工房の哲学である「用の美」を体現しながらも、より個人的な感性や、女性ならではの視点からの温かみや優しさを加えていると評価されています。リーチ工房におけるバーナード・リーチの妻、そして後には息子の妻という立場にありながら、単なる補佐役にとどまらず、国内外の展覧会で作品を発表し、個展も開催することで、一人の独立した陶芸家としての地位を築き上げました。彼女の作品は、機能性と美しさを兼ね備えた日常の器として、多くの人々に愛されました。また、リーチ工房の活動は、20世紀のイギリスにおけるスタジオ・ポタリー運動に大きな影響を与え、後世の陶芸家たちに手仕事の価値や、素材本来の美しさを探求する重要性を示しました。ジャネット・リーチの「まないた皿」のような作品は、大量生産品があふれる現代においても、手作りの温もりと、日々の生活に寄り添う芸術の価値を再認識させるものとして、美術史において重要な位置を占めています。