オーディオガイド トップに戻る
0:00
0:00

ポット Pot

ハンス・コパー Hans COPER

これは、ドイツ出身の陶芸家ハンス・コパーが1979年に制作した陶器の作品「ポット」です。彼の作品は、実用的な器の概念を超え、彫刻的なフォルムと洗練された美意識を追求した現代陶芸の代表例として知られています。

作品の姿と内容

この「ポット」は、高さ20.6センチメートル、幅8.9センチメートル、奥行き8.2センチメートルという、比較的細長く、奥行きよりも幅がわずかに広い、扁平で垂直性を強調した形状をしています。ハンス・コパーの「ポット」シリーズに共通して見られる特徴として、単純な円筒形や球形ではなく、複数の部分を組み合わせる「合接(ごうせつ)」という技法によって生み出された、独自のバランスと緊張感を伴う構成が推測されます。具体的には、轆轤(ろくろ)で形成された異なる形状のパーツが精緻に結合され、明確な輪郭線を描きながら上へと伸びるフォルムを持つと考えられます。

色彩は、コパーが好んで用いたモノトーンに近い色調、例えば、乾いたマンガン釉による黒や茶、またはクリーム色のスリップが用いられ、表面はわずかに粗い、あるいは梨地のような質感を持っている可能性が高いでしょう。 光が当たると、その質感によって、滑らかな部分と微細な凹凸のある部分との間で柔らかな陰影が生まれ、作品の構造的な深みを際立たせます。器としての機能は控えめに、むしろ量感や空間との対話を重視した、静謐でありながらも力強い存在感を放つ作品であると推測されます。

背景・経緯・意図

ハンス・コパー(1920-1981)は、ドイツに生まれ、父親がユダヤ人であったためナチスの迫害から逃れるべく1939年に単身イギリスへ亡命した陶芸家です。 第二次世界大戦後、陶芸家ルーシー・リーの工房で陶製ボタンの助手として働き始めたことをきっかけに陶芸の道に進みました。 当初は彫刻家を志していたコパーは、リーの工房で轆轤の才能を開花させ、短期間で技術を習得しました。

1979年に制作されたこの「ポット」は、彼のキャリア最晩年に近い時期の作品にあたります。コパーは1975年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、身体が不自由になる中で1980年まで制作を続け、翌1981年に逝去しました。 この時期の作品は、彼が長年追求してきた「器」と「彫刻」の境界を越える造形への探求が、より一層深まり、洗練された形で結実したものです。 彼は「轆轤は簡潔を課し、限界を示し、弾みと連続性を与えてくれる」 と語っており、轆轤の制約の中でいかに普遍的で力強いフォルムを生み出すかに挑んでいました。晩年期の作品には、体調の変化が影響を与えた可能性も考えられますが、より本質的な形態への集中が見て取れます。

技法や素材

この作品には「陶器(ストーンウェア)」が用いられています。ストーンウェアは、粘土を約1100度から1250度の高温で焼成して作られる陶磁器の一種で、耐久性が高く、密度が密で吸水性が低いという特徴を持ちます。 陶器と磁器の中間的な性質を持ち、素朴でありながら洗練された質感を生み出す素材として、コパーは生涯にわたりストーンウェアを主要な素材として採用しました。

コパーの作品の多くは、轆轤を用いて個別に成形された複数のパーツを組み合わせる「合接」という独特な技法によって作られています。 各パーツは円盤や円筒などシンプルな形状を基としながらも、これらを巧みに結合させることで、有機的で新しい造形を生み出しました。 表面の質感には特にこだわりが見られ、水で溶いた粘土を何度も塗布、乾燥、研磨、掻き落とすといった工程を繰り返すことで、複雑で深みのある表情を生み出しています。 釉薬はマットなものや、酸化マンガンを用いた乾いたような質感を重視したものが多く、土本来の風合いや形態の美しさを際立たせています。

意味

ハンス・コパーの「ポット」は、単なる容器としての機能を超越し、彫刻的なオブジェとしての意味合いが強い作品です。彼の作品に見られる普遍的なフォルムは、古代の器やキクラデス文明の彫刻、あるいは自然界の種子や貝殻といった、時を超えた原始的な生命の形態を想起させます。

作品に込められた意味は、物質としての陶土から、内なる空間(虚)と外側の表面(実)との関係性を探り、存在そのものの本質を表現しようとするものです。静謐で抑制された色彩と、研ぎ澄まされたフォルムは、見る者に瞑想的な感覚を促し、時間や空間を超越した普遍的な美意識を伝えます。機能性を手放すことで、器はより抽象的な「存在」としての意味を獲得し、生命の循環や時間の流れといった根源的なテーマを暗示しているとも解釈できます。

評価や影響

ハンス・コパーは、ルーシー・リーと並び、20世紀後半のイギリス陶芸界に大きな影響を与えた巨匠として高く評価されています。 彼は、当時の主流であった東洋の伝統的要素を重視する作風とは一線を画し、都会的でモダンなデザイン、そして彫刻や建築との関連性を深く意識した作品を生み出しました。

彼の作品は、発表当時から「彫刻的」であり「建築的」と評され、器の概念を拡張し、陶芸を彫刻や建築と同等の意味と重さを持つ現代芸術へと高めたとされています。 特に、轆轤を主たる道具としながらも、複数のパーツを合接する独自の技法で生み出されたフォルムは、後世の陶芸家たちに計り知れない影響を与え、陶芸の新たな可能性を切り拓きました。 今日においても、コパーの作品は世界中の美術館やコレクターに求められ、20世紀陶芸における革新者としての地位を確固たるものにしています。 彼の美意識と探求は、現代陶芸の発展において重要な足跡を残し続けています。