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コーヒーセット Coffee Set

ルーシー・リー/ハンス・コパー Lucie RIE / Hans COPER

ルーシー・リーとハンス・コパーによる1955年頃制作の「コーヒーセット」は、彼らの協働精神と、機能性と美の融合を追求したモダン陶芸の傑作として知られています。このセットは、日常の器に洗練された造形と静謐な美意識をもたらし、戦後のイギリス陶芸界に新たな地平を切り開きました。

作品の姿と内容

本「コーヒーセット」は、コーヒーポット、ミルクポット、シュガーボウル、そして複数のコーヒーカップとソーサーから構成されています。それぞれの器は炻器(せっき)という素材を用い、全体的に抑制された色彩と、ろくろで薄く挽かれたシャープなフォルムが特徴です。コーヒーポットは高さ21.6センチメートル、幅21.4センチメートル、奥行き6.6センチメートルと、コーヒーを淹れるための実用的な大きさを持ちながらも、その細身で均整の取れた姿は彫刻のような存在感を放ちます。ミルクポットとシュガーボウルも、それぞれ15.4センチメートルと6.8センチメートルの高さで、ポットとの視覚的な調和を保ちつつ、固有の機能性を備えた形をしています。コーヒーカップは高さ7.5センチメートル、幅9.5センチメートル、奥行き8.4センチメートルと手に馴染むサイズで、ソーサーは直径14.4センチメートル、高さ2.0センチメートルと、カップを安定して受け止めるためのシンプルな円盤状を呈しています。全体の釉薬は、しばしばリーが好んで用いたマンガン釉や錫釉(すずゆう)が施されていると考えられ、深い色合いや絹のような光沢、あるいはマットな質感が、器のミニマルなフォルムを一層引き立てています。特にカップの高台(こうだい)部分には、ルーシー・リー自身の陶印と並んでハンス・コパーの陶印が押されている作品も存在し、二人の共同制作の証となっています。また、ルーシー・リーの作品には、作品の底部などに釉薬がかかっていない「無釉(むゆう)」の部分を残すことで、作品に凛とした緊張感を与える工夫が見られます。

背景・経緯・意図

この「コーヒーセット」が制作された1955年頃は、第二次世界大戦後の復興期であり、イギリスの陶芸界は伝統的な作風からモダンな表現へと変遷する時代でした。ルーシー・リー(1902-1995)はオーストリア、ハンス・コパー(1920-1981)はドイツ出身で、第二次世界大戦の戦禍を逃れてイギリスへ亡命しました。リーは1938年にロンドンのアルビオン・ミューズに工房を構え、戦時中には陶器ボタンの制作で生計を立てていました。1946年、リーの工房にアシスタントとして雇われたのが、当時彫刻家を志していたハンス・コパーでした。二人は師弟関係からやがて共同制作者、そして生涯にわたる深い友情で結ばれることになります。特にテーブルウェアの制作においては、コパーがろくろで成形し、リーが釉薬を施し装飾を付けるという役割分担がしばしば見られました。彼らの作品は、バーナード・リーチ(1887-1979)が提唱した、素朴で力強い民藝運動の潮流がイギリス陶芸界を席巻していた当時において、都市的な洗練と理知的で静謐(せいひつ)な世界観を追求する点で一線を画していました。彼らの制作意図は、単なる機能的な器に留まらず、日常の道具としての実用性と、モダンアートとしての美的価値を高い次元で両立させることにあったと考えられます。限られた材料の中で、シンプルながらも洗練されたフォルムを生み出すことに情熱を注ぎました。

技法や素材

本作品は「炻器(せっき)」、すなわちストーンウェアを用いて制作されています。炻器は高温で焼成されるため、陶器よりも硬く丈夫で、磁器に近い性質を持ちながらも土の温かみを感じさせる素材です。リーとコパーは、ろくろを用いて極めて薄く器体を挽き、その薄さから生まれる軽やかさと繊細さを作品に与えました。リーは特に釉薬の実験に没頭し、その多様な表現は彼女の作品の大きな特徴です。このコーヒーセットにも、彼女独自のマンガン釉や錫釉が用いられていると推測されます。これらの釉薬は、器の表面に単一の色だけでなく、微妙な色の濃淡や質感のバリエーション、あるいは絹のような光沢やマットな質感を創り出し、見る角度によって異なる表情を見せます。また、リーはしばしば、器の底部を無釉(むゆう)のまま残すことで、作品に「凛とした緊張感」を与えたと評されています。コパーが成形を、リーが釉薬を施すという協働体制は、それぞれの卓越した技術と感性を融合させ、高い完成度を持つ作品を生み出すことを可能にしました。

意味

ルーシー・リーとハンス・コパーによるこの「コーヒーセット」は、単なる飲食のための道具を超えた、多層的な意味を内包しています。まず、彼らの作品に共通するミニマルな形態と洗練されたデザインは、戦後のモダニズムの美学を体現しています。日常生活の器であっても、無駄を削ぎ落とし、素材の特性と機能性を最大限に引き出すことで、普遍的な美を追求するというメッセージが込められています。彼らは、バーナード・リーチに代表される民藝的な素朴さとは異なる、都市的な感覚に根ざした「理知的で静謐な世界観」を陶芸で表現しようとしました。コーヒーセットという形態は、人々の交流や家庭での団欒(だんらん)といった日常の儀式に寄り添うものであり、彼らはそこに芸術的な品格と静かな喜びをもたらそうと意図したと考えられます。また、二人の亡命者としての経験は、自らのルーツとは異なる地で、新たな陶芸の可能性を切り開くという、強い創造の原動力となったと推測されます。彼らの作品は、時代や流行に左右されない、普遍的な「かたち」の探求の結晶と言えるでしょう。

評価や影響

ルーシー・リーとハンス・コパーの作品は、発表当時から高く評価され、今日の美術史においてもその重要性は揺るぎないものとなっています。彼らは、イギリスのスタジオ・ポタリー運動において、バーナード・リーチが築いた伝統的な陶芸とは異なる、モダンで国際的な視点をもたらし、その革新的なアプローチで陶芸の概念を拡張しました。特にコパーは、器としての機能性を超えた彫刻的な造形を追求し、陶芸が純粋な芸術表現たり得ることを示しました。一方、リーは卓越したろくろの技術と、独自の釉薬による洗練された美学で、日常の器に高い芸術性を吹き込みました。彼らの共同制作によるテーブルウェアは、機能美と芸術性が融合した代表的な例であり、後世の陶芸家やデザイナーに多大な影響を与えました。その静かで洗練された美意識は、ミニマリズムの先駆けとしても位置づけられ、現代においてもその作品は多くの美術館に収蔵され、コレクターの間で高い人気を誇っています。二人の作品は、美術と工芸の境界を曖昧にし、日常の生活に溶け込む芸術の可能性を提示した点で、20世紀陶芸史における「静かなる革新」を成し遂げたと言えるでしょう。