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ボタン Buttons

ルーシー・リー Lucie RIE

ルーシー・リーが1940年代から1950年代にかけて制作した陶製の「ボタン」は、彼女の多岐にわたる創作活動の一端を示す、機能性と芸術性が融合した作品群です。これらのボタンは、単なる衣料品の付属品に留まらず、優れた職人技と洗練された美的感覚を体現しています。

作品の姿と内容

これらのボタンは、幅1.7センチメートルから5.0センチメートルの範囲で、比較的小さなものから中程度のものまで多様な大きさを持ちます。多くは円形ですが、中にはわずかに不規則な形状を呈するものも見られます。表面は一般的に平坦であるか、あるいはわずかに緩やかなドーム状に盛り上がっており、中央には糸を通すための二つまたは四つの穴が正確に穿たれています。ルーシー・リーの特徴的な釉薬が施されており、その質感は多岐にわたります。例えば、つや消しで滑らかなもの、微細な凹凸が光を優しく反射するざらつきのあるもの、あるいは「火山釉」と呼ばれる泡立ったような独特の表情を持つものなどがあります。色彩は、クリーム色、灰褐色、淡い青、またはマンガンを帯びた深みのある色調など、全体的に落ち着いた色合いが中心ですが、中には鮮やかな発色を見せるものも存在します。釉薬は均一にかけられているものもあれば、わずかな濃淡や筆致の痕跡が残り、手作業の温かみを伝えるものもあります。個々のボタンはそれぞれが小さなオブジェとして完結しており、その簡潔なフォルムと洗練された釉調は、静かで内省的な美しさを放っています。

背景・経緯・意図

「ボタン」は、ルーシー・リーが1938年にウィーンからロンドンに亡命し、第二次世界大戦が勃発した直後の困難な時代、1940年代から1950年代にかけて制作されました。この時期、陶芸家としての活動は物資の制限や経済的な理由から非常に厳しく、食器などの大きな作品の需要も低迷していました。リーは、陶芸家としての生計を立てるため、より小さく、実用的な製品の制作に活路を見出しました。その一つが、この陶製のボタンでした。当時のイギリス社会は戦時下の緊縮財政と物資不足にあり、衣服もまた質素で耐久性が求められました。しかし、リーはそうした状況下でも、日常品にこそ美しさを宿すべきだと考え、一つ一つのボタンに自身の卓越した技術と芸術的センスを注ぎ込みました。彼女の意図は、単なる実用品を作るだけでなく、それを身につける人々の生活に静かな喜びと洗練をもたらすことにありました。これは、生活の中に芸術を取り入れるというモダニズムの理念とも合致しています。

技法や素材

本作品には「陶製」(earthenware)の素材が用いられています。素朴な風合いが特徴の陶器は、比較的低温で焼成され、吸水性があるため、通常は表面に釉薬を施すことで実用性を高めます。ルーシー・リーは、これらの小さなボタンにおいても、その素材の特性を最大限に活かし、独自の技法を駆使しました。ボタンの成形は、手作業による型抜きや、小さな型を用いたプレス成形、あるいは直接粘土を切り出すといった方法で行われたと推測されます。その後の乾燥、素焼きの工程を経て、リー独自の釉薬が丹念に施されました。彼女の釉薬は、薄く透明感のあるものから、ガラス質で光沢を放つもの、あるいは表面に微細な気泡や結晶が現れる「火山釉」まで多岐にわたりました。ボタンの小さな表面積に均一かつ美しく釉薬をかける技術は、熟練した陶芸家でなければ成し得ないものです。焼成は電気窯やガス窯を用いて行われ、厳密な温度管理のもと、それぞれの釉薬が持つ個性を最大限に引き出すことに成功しています。微細な溝を彫り込む「掻き落とし(s graffito)」の技法が用いられたボタンも見られ、その細やかな装飾は、リーの並々ならぬ技巧を示しています。

意味

ルーシー・リーの「ボタン」は、単なる装飾品や実用品の域を超え、複数の象徴的な意味を内包しています。まず、これらのボタンは、機能性と芸術性の完璧な融合を象徴しています。日常的な小物の中に宿る美しさ、そして実用的な目的を持つ品物にも最高の技術と美意識を注ぎ込むという、リーの芸術哲学が凝縮されています。第二次世界大戦という厳しい時代において、彼女が生き抜くための手段として生み出された経緯は、逆境における創造性と適応能力の象徴でもあります。リーは、どんなに小さなものでも、その制作に真摯に向き合い、一切の妥協を許さない姿勢を貫きました。このことは、彼女が「芸術」と「工芸」というヒエラルキーに囚われることなく、あらゆるものに価値を見出す視点を持っていたことを示唆しています。また、シンプルなフォルムと洗練された釉薬の表現は、20世紀モダニズムにおける美学、すなわち無駄を削ぎ落とし、素材そのものの美しさを追求する精神を体現しています。これらのボタンは、今日ではルーシー・リーの作品群の中でも特に収集家から珍重される品であり、彼女の創作活動の幅広さと、どのような対象にも応用される普遍的な美意識の証となっています。

評価や影響

ルーシー・リーの「ボタン」は、発表された当時の評価と現代における評価において、その位置づけに変遷が見られます。1940年代から1950年代にかけては、まず実用的な「ボタン」として、その優れた品質と美しいデザインが高く評価されました。特に、手作業による温かみと洗練された雰囲気は、当時の厳しい物資不足の中で人々から支持を得たと推測されます。彼女のロンドンのスタジオ兼ショールームでは、こうしたボタンが服飾デザイナーや一般の顧客に販売され、リーの経済的基盤を支える重要な収入源となりました。 現代においては、これらのボタンは単なる衣料品の付属品ではなく、ルーシー・リーという偉大な陶芸家の初期の重要な作品群の一つとして、その芸術的価値が再評価されています。彼女の独特の釉薬表現やミニマルな造形美が、小さなボタンの中にも確かに息づいていることが認識され、美術史においても、彼女の作品全体を理解する上で欠かせない要素と見なされています。後世の工芸家やデザイナーに対しては、日常品の中にこそ芸術性を追求することの重要性、そして素材と技法に対する深い洞察が、いかに普遍的な美を生み出すかという点で多大な影響を与えました。リーのボタンは、20世紀のクラフト運動における機能と美の融合を象徴する作品として、その存在感を放ち続けています。