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水差し Pitcher

ゲルハルト・マルクス/マックス・クレハン Gerhard MARCKS/Max KREHAN

このたびご紹介するのは、ドイツの彫刻家であり教育者であったゲルハルト・マルクスと、陶工であるマックス・クレハンが1920年から1923年にかけて共同で制作した陶器作品「水差し」です。これは、初期バウハウスの陶芸工房における重要な成果の一つとして知られ、工芸と芸術の融合というバウハウスの理念を体現しています。

作品の姿と内容

この水差しは、高さ31.5センチメートル、幅21.8センチメートル、奥行き21.4センチメートルの堅牢な陶器でできています。全体として、余分な装飾を排した非常に簡潔で機能的な形態が特徴です。胴体部分は、底に向かってわずかに広がる安定感のある円筒形をしており、上部が緩やかにすぼまって注ぎ口へとつながっています。注ぎ口は、液体をスムーズに注げるよう、なめらかなカーブを描いて外側へわずかに突き出しています。胴体の側面には、手のひらにしっかりと収まるように設計された、力強くカーブした取っ手が取り付けられています。この取っ手は、胴体の上部と中央付近にしっかりと接合されており、持ち上げた際の安定感を保つ工夫が見られます。表面は、光沢を抑えたマットな質感で、土の持つ素朴な風合いが最大限に生かされています。釉薬(ゆうやく)は施されているものの、その色は自然な土の色合いを基調とし、特定の装飾的なパターンは一切ありません。素材そのものが持つ重厚感と、無駄のないフォルムが調和し、静かで力強い存在感を放っています。

背景・経緯・意図

この「水差し」が制作された1920年から1923年という時期は、第一次世界大戦後の混乱から復興を目指すドイツにおいて、芸術と技術の新たな統合を提唱するバウハウスが設立されて間もない頃にあたります。1919年にヴァルター・グロピウスによってワイマールに創設されたバウハウスは、芸術家と職人の区別をなくし、工業生産に適した機能的で美しい製品を生み出すことを目指していました。ゲルハルト・マルクスは、この初期バウハウスで陶芸工房の主任(フォルムマイスター)を務め、伝統的な陶芸技術を重視しながらも、近代的なデザイン理念を導入しました。一方、マックス・クレハンは、伝統的な技術を持つ熟練の陶工(ヴェアキシュテンマイスター)としてマルクスを支え、学生たちに実践的な技術指導を行っていました。この水差しは、彼ら二人の協働、すなわち芸術家のデザインと職人の技術が一体となって生まれた作品であり、「芸術は工芸の昇華である」というバウハウスの初期の理想を具体化したものと言えます。当時の社会では、大量生産された安価な製品が市場に溢れる一方で、質の高い日常品が求められており、彼らはそうしたニーズに応えるべく、実用性と美しさを兼ね備えた作品の制作を目指しました。

技法や素材

この「水差し」に用いられている素材は、陶器(ストーンウェア)です。陶器は、粘土を高温で焼成することで作られる焼き物で、磁器と比較して吸水性があるものの、耐久性に優れ、温かみのある質感が特徴です。本作では、おそらくろくろ成形によって本体の基本形が作られ、その後、取っ手や注ぎ口などのパーツが手作業で取り付けられたと推測されます。バウハウスの陶芸工房では、手作業による丁寧な制作プロセスが重視されており、各工程において職人的な技術と芸術的な感性が融合していました。表面には、比較的薄い釉薬が施されていると考えられますが、その目的は色彩や装飾性を付加することよりも、素材の保護と、触感の向上、そして素朴な美しさを引き出すことに重点が置かれています。釉薬の色合いは、土の自然な色味を活かしたアースカラーが採用されていることが多く、これは素材の正直さ、誠実さを重んじるバウハウスの哲学を反映しています。

意味

「水差し」という日常的な器は、機能性、つまり飲み物を注ぎ、貯蔵するという明確な目的を持っています。バウハウスにおいてこのような日常品を制作することは、単なる実用品の生産に留まらず、生活空間全体を芸術的に改革しようとする彼らの思想を象徴していました。この水差しは、過剰な装飾を排し、純粋な形態と素材の質感を追求することで、その機能美を最大限に引き出しています。それは、生活の中にあるもの全てが美しくあるべきだというバウハウスの理念、そして「より良い生活のためのデザイン」という思想を具現化したものです。この作品は、華美な装飾品ではなく、誰もが日常的に使用する道具の中にこそ、真の芸術性や美が存在するというメッセージを強く発信していると言えます。

評価や影響

ゲルハルト・マルクスとマックス・クレハンによる初期バウハウスの陶芸作品、特にこの「水差し」のような機能的な日常品は、当時の美術界において、伝統的な芸術作品とは異なる新たな価値基準を提示しました。当初は、純粋な芸術作品としての評価よりも、工芸品としての側面が強かったかもしれませんが、その簡潔で普遍的なデザインは、現代のプロダクトデザインの萌芽として高く評価されています。これらの作品は、その後の工業製品のデザインに多大な影響を与え、機能主義やミニマリズムといったデザイン思想の形成に寄与しました。バウハウスの陶芸工房は、わずか数年で閉鎖されましたが、そこで培われた理念と実践は、マルクスの彫刻作品や、その他の多くのバウハウス出身デザイナーたちの活動を通じて、20世紀のデザイン史において不動の地位を築きました。現代においても、この「水差し」は、バウハウス初期の精神、すなわち芸術と工芸の統合、そして機能と美の調和を象徴する作品として、その価値が再認識され続けています。