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モンモランシーの通り / A Street at Montmorency

モーリス・ユトリロ / Maurice Utrillo

モーリス・ユトリロが1912年頃に制作した油彩画「モンモランシーの通り」は、ひろしま美術館に収蔵されており、画家の得意としたパリ郊外の日常的な風景を鮮やかに描き出しています。

作品の姿と内容

画面のほぼ中央には、緩やかなS字を描きながら奥へと続く未舗装の通りが伸びています。通りの両側には、淡い色合いの建物が立ち並び、全体的に抑制された色彩で統一されています。画面左手には背の高い壁が続き、その向こうには屋根が見え隠れしています。右手には、窓が並ぶ数階建ての住宅が描かれ、一部の窓には緑色の雨戸が閉じられています。これらの建物は、石造りの壁の質感が厚い絵の具の層によって表現され、ざらつきのあるマチエールが特徴的です。空は画面上部に広がり、淡い青色の中に白い雲が点々と浮かんでいます。画面全体には人物の姿は見られず、静かで穏やかな時間が流れているかのような印象を与えます。光は穏やかに差し込み、建物や通りの表面にわずかな陰影を作り出し、空間に奥行きを与えています。

背景・経緯・意図

この作品が制作された1912年頃は、ユトリロの画家としてのキャリアにおいて「白の時代」と呼ばれる時期の終盤にあたります。この時期の作品は、石灰やしっくいを思わせるような、白を基調とした淡い色彩が特徴とされています。モンモランシーはパリ北部の郊外に位置する町で、当時のパリはベル・エポックの華やかさから第一次世界大戦へと向かう過渡期にあり、ユトリロはこうした喧騒から離れた郊外の静かな風景に安らぎを見出し、主題として選びました。彼は、パリのモンマルトルや郊外の古い建物の壁や通り、教会などを繰り返し描いており、特に古びた建物の壁が持つ独特の風合いや、そこで営まれる人々の生活の痕跡に深い関心を寄せていたと考えられます。彼の作品にはしばしば人物が少なく、建物そのものが持つ歴史や存在感に焦点を当てることで、都市の記憶や時間の流れを表現しようとする意図が見て取れます。

技法や素材

「モンモランシーの通り」は、油彩がカンヴァスに描かれています。ユトリロは、特にこの「白の時代」において、絵具に砂や石膏、セメントなどを混ぜることで、建物の壁や通りの質感を表現する独自の技法を多用しました。これにより、画面には独特のざらつきや厚みが生まれ、まるで本物の壁のような重厚感が与えられています。筆致は細かく丁寧でありながらも、時に厚く塗られた絵具によって力強さが加わり、建物の古びた様子や陽の光を受けた表面の微細な変化を効果的に描写しています。また、彼は既製の絵葉書や写真からモチーフを得て制作することもあったとされ、実景を忠実に再現しようとする一方で、自身の感情や記憶を通して再構築された風景を描くことに長けていました。

意味

ユトリロの描く街並みは、単なる風景の記録に留まりません。彼の作品に繰り返し登場する古びた建物や静かな通りは、時代の変遷の中でひっそりと佇む都市の記憶や、そこに暮らす人々の営みを象徴しています。モンモランシーのようなパリ郊外の風景は、急速に近代化が進む大都市パリの喧騒とは対照的に、忘れ去られつつある牧歌的な日常や、ノスタルジーを感じさせる空間として提示されます。建物そのものが持つ歴史的重みや、塗り重ねられた壁の質感は、時の流れや人々の生活の痕跡を物語っているかのようです。画面に人物がほとんど描かれないことは、鑑賞者自身の感情や記憶を風景に投影させ、普遍的な郷愁や静寂の感情を呼び起こす効果をもたらしています。

評価や影響

モーリス・ユトリロは、フォーヴィスムやキュビスムといった前衛的な芸術運動が台頭する20世紀初頭にあって、伝統的な具象絵画のスタイルを堅持しました。しかし、彼の描くパリの街並みは、特定の様式に囚われない独自の表現で高い評価を受けました。特に「白の時代」の作品は、その詩情豊かな描写と独特のマチエールによって、彼の代表的なスタイルとして認識されています。彼は、単なる風景画家としてではなく、都市の記憶と感情を表現する画家として、美術史において独自の地位を確立しました。後世の画家たちにも影響を与え、都市風景を描く際に、単なる描写を超えた内面的な感情や歴史的背景を表現することの可能性を示しました。彼の作品は、現在も世界中の美術館に収蔵され、多くの人々に愛され続けています。