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NHK日曜美術館50年展

東京藝術大学大学美術館(とうきょうげいじゅつだいがくだいがくびじゅつかん)では、NHKの長寿番組「日曜美術館(にちようびじゅつかん)」の放送開始から五十年を迎えることを記念し、「NHK日曜美術館50年展」が開催されます。二〇二六年三月二十八日(土)から六月二十一日(日)までの会期中、本館展示室(ほんかんてんじしつ)一から四を用いて、番組がこれまでに紹介してきた百二十点を超える名品の数々が展示されます。本展は、単に美術品を羅列するのではなく、番組を彩った歴代の出演者たちが紡(つむ)いできた言葉や、貴重な放送映像を交えながら、「美」と人、そして時代とを繋(つな)いできた「日曜美術館」の半世紀にわたる歴史とその精神を深く探求する試みです。西洋美術から日本美術、現代アート、工芸に至るまで、多岐にわたるジャンルの作品を通して、美とは何か、私たちはどのように美と向き合ってきたのかを問いかけます。

展覧会の見どころ

本展の最大の注目点は、単なる美術作品の展示に留まらず、日本における美術鑑賞の歴史そのものを「NHK日曜美術館」という視点から再構築している点にあります。一九七六年の放送開始以来、二千五百回を超える放送を重ねてきた「日曜美術館」は、多くの視聴者にとって美術への扉を開く存在であり続けました。番組は、古今東西の名作を紹介するだけでなく、その作品が生まれた背景、作家の人生、そして何よりも、作品を深く読み解く「言葉」の力を大切にしてきました。本展では、厳選された百二十点以上の名品の展示に加え、番組に登場した著名な「語り部(かたりべ)」たちの言葉や、当時の貴重な放送映像を展示空間で体験することができます。これにより、鑑賞者は単に作品を「見る」だけでなく、作品がどのように語られ、時代の中でどのように受容(じゅよう)されてきたのかを追体験することが可能になります。

特に、パブロ・ピカソの傑作《ゲルニカ》を原寸大の高精細映像で鑑賞できる機会は、美術ファンにとって見逃せないでしょう。五十年という長きにわたり、日本人の美意識(びいしき)に大きな影響を与え続けてきた「日曜美術館」の軌跡をたどる本展は、美術番組のパイオニアとしてのその歴史的意義と、美が持つ普遍的な価値を改めて認識させてくれる、またとない機会となるでしょう。

展覧会の構成と鑑賞ガイド

本展は、NHK「日曜美術館」が半世紀にわたって取り上げてきた多種多様な美術の世界を、五つの章に分けて紹介します。これらの章は、それぞれ独立したテーマを持ちながらも、番組が一貫して探求してきた「美」と「人」との関係性を軸に、有機的に結びついています。鑑賞者は、第一章で美を語り継ぐ言葉の重要性を認識し、第二章で日本固有の美意識の変遷(へんせん)をたどり、第三章で伝統と革新が交錯する工芸の世界に触れます。続く第四章では、災禍(さいか)と向き合いながらも生み出されてきた美の力を感じ、最後の第五章では、作家の創作の現場とその生き様を通じて、創造の深淵(しんえん)に迫ることになります。各章には、番組で紹介された代表的な作品群とともに、当時の放送映像や出演者の言葉が効果的に配され、あたかも「日曜美術館」の番組を巡るかのように、自然でスムーズな鑑賞体験を提供します。

第1章:語り継ぐ美 ~時を超えて美を語る言葉・語らせる作品

「日曜美術館」の歴史は、一九七六年四月に「私と〇〇」という企画で幕を開けました。この第一章では、番組が当初から大切にしてきた「美を語る言葉」の重要性に焦点を当てています。ここでは、各界の第一線で活躍するゲストが、自らが深く敬愛する作家や作品への思いを紡(つむ)ぎ、美術の本質や創作の背景に迫る姿が紹介されます。大江健三郎(おおえ けんざぶろう)氏が語るフランシス・ベーコン、舟越保武(ふなこし やすたけ)氏が伝える松本竣介(まつもと しゅんすけ)、そしてモデルとなった矢内原伊作(やないはら いさく)氏がその思いを伝えるアルベルト・ジャコメッティなど、古今東西の作家と作品、そしてそれらを深く読み解く「語り部」たちの言葉が、作品の新たな魅力を引き出します。

展示される作品には、ポール・セザンヌの《水浴》(すいよく)や、アルベルト・ジャコメッティの《ヤナイハラ1》といった西洋美術の巨匠たちの名作が含まれます。これらの作品は、時代を超えて人々を惹(ひ)きつけ、多くの言葉を喚起(かんき)する力、すなわち「語らせる力」を持っていることが示されます。鑑賞者は、作品そのものが持つ造形的な美しさだけでなく、それを取り巻く知的な対話や感情的な響きを通じて、美術鑑賞の多面性(ためんせい)を再認識することになるでしょう。番組の初期から現在に至るまで、いかにして「美の語り部」たちが、言葉にならない美を言葉で紡ぎ、視聴者と作品、作家をつないできたのか、その軌跡を深くたどることができます。

第2章:日本美の再発見 古代から明治まで

第二章では、日本固有の美意識が、いかにして時代ごとに新たな光を当てられ、再発見されてきたかをテーマとしています。「日曜美術館」は、放送初期から葛飾北斎(かつしか ほくさい)や伊藤若冲(いとう じゃくちゅう)といった日本美術の巨匠たちを積極的に紹介し、二〇一六年の若冲展での大行列に象徴されるような、日本美の再評価に大きく貢献してきました。この章では、一九五〇年代に岡本太郎(おかもと たろう)氏が提唱(ていしょう)した縄文(じょうもん)の美の再発見や、辻惟雄(つじ ゆきお)氏による江戸時代の「奇想(きそう)の絵画」の評価など、ある時代、ある人の視点によって輝きを取り戻した日本の美が紹介されます。

展示作品には、力強い造形美を誇る《縄文土器 深鉢 火焔型土器》(じょうもんどき ふかばち かえんがたどき)をはじめ、伊藤若冲の精緻(せいち)で独創的な絵画、曾我蕭白(そが しょうはく)の大胆な筆致(ひっち)による作品、そして葛飾北斎の浮世絵(うきよえ)の傑作群などが並びます。これらの作品は、村上隆(むらかみ たかし)氏、舞踏家(ぶとうか)の大野一雄(おおの かずお)氏、そして井浦新(いうら あらた)氏といった現代の視点を持つ「語り部」たちの言葉を通じて、現代に生きる私たちに、日本美術の奥深さと、その美が持つ普遍的な魅力とを伝えます。鑑賞者は、自らの中に脈々と受け継がれる美の源流(げんりゅう)を再発見する体験を通じて、日本文化への理解を深めることができるでしょう。

第3章:工芸 伝統と革新

第三章では、「日曜美術館」がこの五十年間にわたり、毎年欠かすことなく発信し続けてきた「工芸」の世界に光を当てます。工芸は、その素材と技法において、まさに「伝統」と「革新」が交錯(こうさく)する領域であり、日本の美意識の重要な側面を担(にな)ってきました。この章では、正倉院(しょうそういん)の宝物(ほうもつ)に代表される古(いにしえ)の名品から、人間国宝(にんげんこくほう)としてその技を継承し、さらに発展させてきた現代の匠(たくみ)たちの仕事まで、幅広い工芸作品が紹介されます。

展示では、素材と真摯(しんし)に向き合い、伝統的な技法を継承しながらも、新たな表現を模索する作家たちの姿が、貴重な番組映像とともに紹介されます。松田権六(まつだ ごんろく)氏のような漆芸(しつげい)の巨匠(きょしょう)から、室瀬和美(むろせ かずみ)氏、森口邦彦(もりぐち くにひこ)氏といった現代を代表する人間国宝、さらに安藤緑山(あんどう りょくざん)氏や塩見亮介(しおみ りょうすけ)氏に代表されるような、古(いにしえ)の技を超越(ちょうえつ)しようと精進する「超絶技巧(ちょうぜつぎきょう)」の作品群まで、世界に誇る日本の優れた工芸をご堪能いただけます。親から子へ、師から弟子へと技を繋ぐ葛藤(かっとう)や、若き日の挑戦など、ものづくりの深遠なる世界を通じて、日本の工芸が持つ精神性と、その美意識の多様性を深く感じ取ることができるでしょう。

第4章:災いと美

続く第四章では、五十年という番組の歩みの中で、疫病(えきびょう)や自然災害、そして繰り返される戦争といった「災禍(さいか)」に、作家たちがどのように向き合い、そこからいかなる「美」が生み出されてきたのかを問いかけます。美術は、時に災いによって傷つき、失われる一方で、困難な時代において人々の心に寄り添い、希望を与え、あるいは社会に対する問いかけを投げかける役割を果たしてきました。この章は、美が持つ、災いと向き合い、理解し、受け止めるための力、そしてその回復力に焦点を当てます。

展示作品の中には、香月泰男(かづき やすお)氏の戦争をテーマにした作品、靉光(あいみつ)氏の独特の表現、野見山暁治(のみやま ぎょうじ)氏の力強い絵画、そして石内都(いしうち みやこ)氏の写真作品など、個々の作家が体験した災禍と、そこから生まれた深い洞察(どうさつ)が込められた作品が並びます。特に注目されるのは、パブロ・ピカソの傑作《ゲルニカ》を原寸大の高精細映像で鑑賞できることです。スペイン内戦の悲劇を描いたこの作品は、戦争の悲惨さと、それに対する芸術家の強いメッセージを現代に伝えています。鑑賞者は、これらの作品を通じて、美が人類の歴史において果たしてきた役割と、その計り知れない力を改めて考える機会を得るでしょう。

第5章:作家の生き様と美 ~アトリエ&創作の現場

最終章となる第五章では、作家が最も長い時間を過ごし、一つの作品が生み出される瞬間に立ち会うことができる「アトリエ」と「創作の現場」に焦点を当てます。ここでは、岡本太郎(おかもと たろう)氏、柚木沙弥郎(ゆのき さみろう)氏、志村ふくみ(しむら ふくみ)氏、加山又造(かやま またぞう)氏、李禹煥(リ ウファン)氏、舟越桂(ふなこし かつら)氏、諏訪敦(すわ あつし)氏、山口晃(やまぐち あきら)氏といった、多岐にわたるジャンルの現代作家たちの作品と、彼らの創作の過程を記録した貴重な番組映像が紹介されます。

アトリエは、作家の思想、感情、そして身体が一体となって作品へと昇華(しょうか)される場所です。放送時の映像とともに、制作の過程で作家が語る言葉に耳を傾けることで、鑑賞者は創造という行為の深淵(しんえん)と、作品に込められた作家の魂の軌跡を感じ取ることができます。作品が単なる物質ではなく、作家の生き様(いきざま)そのものの結晶(けっしょう)であることを実感するこの章は、美術作品をより深く理解するための鍵となるでしょう。完成された作品の背景にある、作家の苦悩や喜び、そして創作への情熱に触れることで、美に対する私たちの認識は一層豊かなものとなるはずです。

まとめ

「NHK日曜美術館50年展」は、一九七六年の放送開始以来、五十年という長きにわたり日本の美術界と視聴者の心に寄り添い続けてきた「日曜美術館」の、壮大な軌跡(きせき)をたどる画期的な展覧会です。東京藝術大学大学美術館を会場に、百二十点を超える名品の数々が、番組ならではの切り口である五つの章立てで紹介されます。

本展は、単に美しい作品を鑑賞するだけでなく、作品をめぐる人々の言葉、そして時代の流れの中で美がいかに語られ、再発見され、時に困難な状況下で人々に力を与えてきたかという、番組が大切にしてきた「美と人との対話」そのものを追体験できる点が最大の魅力です。貴重な放送映像や、歴代の出演者たちが紡いできた言葉は、美術作品が持つ多面的な魅力を引き出し、鑑賞者に深い思索(しさく)を促します。

この展覧会は、「日曜美術館」という番組が、いかにして多くの人々にとって美術への入り口となり、その美意識を育んできたかを雄弁(ゆうべん)に物語っています。美術作品の前に立つことで得られる感動、そしてそれらの作品が持つ歴史的・文化的背景への理解を深めることは、私たちの日常をより豊かに彩るでしょう。美術番組の金字塔(きんじとう)が半世紀にわたり築き上げてきた美の世界に触れ、新たな発見と感動に満ちた美術体験をぜひご堪能ください。

展示会情報

会場
東京藝術大学大学美術館
開催期間
2026.03.28 — 2026.06.21