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ショッピングモール

山口晃

NHK日曜美術館(にちようびじゅつかん)放送開始50年を記念する特別展において、現代美術家・山口晃(やまぐちあきら)の作品《ショッピングモール》が展示されます。この作品は、2015年に制作が開始された油彩(ゆさい)、水彩(すいさい)、墨(すみ)によるカンヴァス画で、作者が生まれ育った群馬県(ぐんまけん)桐生市(きりゅうし)の情景を、古(いにしえ)の「洛中洛外図(らくちゅうらくがいず)」の様式で描いた意欲作です。桐生市が所蔵し、大川美術館(おおかわびじゅつかん)に寄託(きたく)されています。

背景・経緯・意図

山口晃は、1969年に東京都で生まれ、幼少期を群馬県桐生市で過ごしました。東京藝術大学(とうきょうげいじゅつだいがく)で油画を専攻し、西洋画の技法を習得しながらも、日本の近代美術が西洋の模倣に偏り、日本本来の内発性(ないはつせい)を欠いているのではないかという問題意識を強く抱いていました。彼は、明治以前の日本美術、特に大和絵(やまとえ)や浮世絵(うきよえ)の様式に活路を見出し、これらを現代に再解釈する独自の作風を確立します。 作品《ショッピングモール》は、2015年に作者の故郷である桐生市を題材として発表されました。これは、日本の伝統的な鳥瞰図(ちょうかんず)表現である「洛中洛外図」の様式を借りて、桐生市内の様子を俯瞰(ふかん)的に捉え、現代の街並みに時空を超えた想像を交えるという、山口晃ならではの試みが込められた作品と考えられます。

技法や素材

《ショッピングモール》は、油彩、水彩、墨(すみ)という複数の画材がカンヴァス上に用いられています。山口晃は、大学で油絵を専門に学びながらも、伝統的な日本画の様式や緻密な線描(せんびょう)を取り入れた独自の表現を追求しています。そのため、彼の作品は西洋絵画の油彩でありながら、大和絵や浮世絵を思わせる細密描写(さいみつびょうしゃ)と、絵巻物(えまきもの)のような物語性豊かな構図が特徴です。 本作においても、油彩の豊かな色彩表現と、水彩や墨の繊細な筆致(ひっち)が組み合わされていると推測されます。特に墨の使用は、日本画の伝統的な要素を油絵の具と融合させる彼の独特な技法の一端を示しており、線描を重視する日本絵画の特質を現代に蘇らせようとする意図がうかがえます。

意味

《ショッピングモール》という作品名は、現代社会において人々の消費活動と生活の中心となる場所を指しますが、山口晃の作品においては、単なる商業施設以上の意味を持つと解釈できます。彼の作品に多く見られる、高層ビルと瓦屋根(かわらやね)の家屋、現代人と武士(ぶし)などが混在する表現は、異なる時代や文化が同一の空間に共存する日本独特の状況を象徴しています。 この作品が桐生市を題材とし、未完成ながらも「洛中洛外図」の様式を借りている点から、現代の都市空間に過去の記憶や歴史、そして未来への想像力を重ね合わせることで、日本社会の多層的な時間軸(じかんじく)や文化的蓄積(ぶんかてきちくせき)を表現しようとしていると考えられます。鑑賞者が絵の中に自分にとって馴染み深い場所や店を見つけることができるという逸話は、この作品が地域と個人の記憶を結びつけ、身近な風景の中に壮大な歴史や空想の世界を包含する試みであることを示唆しています。

評価や影響

山口晃は、その卓越した画力と、伝統的な日本美術の様式と西洋の油彩技法を融合させた独自のスタイルで、国内外から高い評価を受けている現代美術家です。2001年には第4回岡本太郎記念現代芸術大賞で優秀賞を受賞し、2013年には著書『ヘンな日本美術史』で第12回小林秀雄賞(こばやしひでおしょう)を受賞するなど、美術史家としても評価されています。 彼の作品は、成田国際空港(なりたこくさいくうこう)や東京メトロ日本橋駅(とうきょうメトロにほんばしえき)のパブリックアート、NHK大河ドラマのオープニングタイトルバック画、書籍の挿画(そうが)・装画(そうが)など、幅広い分野で展開されており、その知名度と影響力は多岐にわたります。 《ショッピングモール》が展示される「NHK日曜美術館50年展」は、日本の美術界における「語り部」としての番組の歴史を振り返る大規模な展覧会であり、山口晃の作品が、岡本太郎(おかもとたろう)や柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)といった著名な作家たちとともに「作家の生き様(いきざま)と美〜アトリエ&創作の現場」の章で紹介されることは、彼の作品が現代美術における重要な位置を占めていること、そして「日曜美術館」が長年にわたりその活動を注目し伝えてきたことの証しと言えるでしょう。