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身延山久遠寺大本堂外陣天井画下図

加山又造

NHK日曜美術館50年展で紹介されている加山又造(かやままたぞう)の「身延山久遠寺(みのぶさんくおんじ)大本堂外陣天井画下図」は、現代日本画を代表する巨匠が手がけた壮大な天井画の構想をうかがい知ることができる貴重な資料です。この作品は、日本美術の伝統と革新を追求し続けた加山の芸術活動の一端を示しています。

背景・経緯・意図

加山又造は、第二次世界大戦後の日本画壇において、伝統的な日本画の技法に西洋絵画の要素や独自の解釈を融合させ、現代的な表現を確立したことで知られる画家です。彼のキャリアを通じて、動物画、風景画、人物画と多岐にわたるテーマを手がけましたが、特に晩年には、仏教美術や大規模な建築空間を彩る装飾画の制作に注力しました。身延山久遠寺大本堂の天井画は、そうした彼の円熟期の代表作の一つであり、日蓮宗の総本山である久遠寺からの依頼を受けて、1983年から1984年にかけて制作されたものです。このプロジェクトは、単なる絵画制作にとどまらず、信仰の場における空間全体を芸術で荘厳するという、日本美術の歴史において連綿と受け継がれてきた伝統に現代的な息吹を吹き込む試みであったと考えられます。加山は、この天井画に、仏教的世界観や自然の壮大さを表現することで、参拝者に深い感動と畏敬の念を抱かせることを意図したと推測されます。

技法や素材

「身延山久遠寺大本堂外陣天井画下図」は、紙本墨画(しほんぼくが)で描かれています。これは、和紙などの紙の支持体に、墨を用いて描かれた絵画を指します。天井画の制作にあたっては、まずこのような下図によって構図やモチーフの配置、全体のトーンなどが綿密に検討されます。墨の濃淡や筆遣いの強弱によって、大画面に描かれる最終的な彩色画の迫力や動き、立体感がどのように表現されるかを試行錯誤した痕跡が見て取れるでしょう。加山又造は、精密な描写力と大胆な構図を特徴としており、この下図においても、墨一色でありながらも、生き生きとした生命感や力強いエネルギーが感じられる表現が追求されています。紙本墨画は、日本画において古くから素描や習作に用いられてきた伝統的な技法であり、完成作の裏側にある画家の思考プロセスや熟練した筆技を直接的に伝える貴重な資料です。

意味

身延山久遠寺大本堂の天井画に描かれたモチーフは、仏教の世界観や久遠寺の歴史、あるいは加山又造自身の芸術哲学を反映していると考えられます。日本の寺院の天井画には、龍、鳳凰、天女、花鳥などが描かれることが多く、これらは仏教における吉祥(きっしょう)の象徴や、浄土の世界、宇宙の運行などを表現しています。久遠寺が日蓮宗の総本山であることから、法華経(ほけきょう)の世界観や、日蓮聖人(にちれんしょうにん)の教えに関連するモチーフが選ばれた可能性も考えられます。加山又造は、伝統的なモチーフを単に踏襲するだけでなく、自身の感性を通して現代的な解釈を加えてきました。そのため、この天井画に込められた意味は、単なる装飾を超え、空間全体を包み込む精神性や、鑑賞者一人ひとりの内面世界に働きかける深い主題を表現しようとしたものと推測されます。

評価や影響

加山又造の「身延山久遠寺大本堂外陣天井画」は、彼の画家としての円熟期を代表する大規模な公共建築における作品として、高い評価を受けています。この下図は、完成した天井画の壮大さを支える緻密な準備過程を示すものとして、彼の制作姿勢と芸術的探求の深さを物語っています。加山は、戦後の日本画壇において、伝統的な日本画の枠組みを刷新し、現代的な感性を取り入れた独自の表現を確立したことで、美術史における重要な位置を占めています。彼の作品、特にこのような大作は、後進の画家たちに、伝統を継承しつつも新たな表現を追求することの可能性を示しました。また、寺院という伝統的な空間に現代の巨匠が手がけた天井画は、宗教と芸術の現代における新たな関係性を提示し、美術と信仰が結びつく日本文化の深層を現代に再認識させるものであったと言えるでしょう。