塩見亮介
「NHK日曜美術館50年展」において、現代の鍛金家(たんきんか)である塩見亮介(しおみりょうすけ)の作品「白銀角鴟面附白絲絨兜袖(はくぎんみみずくめんつきしらびろうどかぶとそで)」が展示されています。この作品は、2022年に制作された個人蔵の作品であり、鉄、真鍮(しんちゅう)、漆、革、正絹組紐(しょうけんくみひも)などの伝統的な素材と技法を用いつつ、現代的な感性で再構築された甲冑(かっちゅう)の美を表現しています。
塩見亮介は1989年大阪府生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻鍛金(たんきん)分野を2016年に修了し、現在は大学の非常勤講師も務める現代の鍛金家です。彼は金工技法によって表現される「強さ」を追求し、モチーフの造形と質感に深く向き合いながら、現代甲冑の作品群を展開しています。塩見は、自身の作品を「強さに対する憧れ」や「ある種の変身願望の表現」であり、「現実と願望の狭間に浮かび上がる虚像」であると語っています。狼や鷲(わし)といった自然界の気高い動物を作品に取り入れることで、人間が内包する弱さゆえに抱く理想への憧れや、何事にも揺るぎない精神力を表現しようと試みています。過去の優れた工芸作家たちとの対話、そして未来の作家たちとの「勝負」を意識し、自身の作品を通じて「超絶技巧(ちょうぜつぎこう)」を追求する姿勢は、彼の一貫した制作意図を物語っています。
本作品「白銀角鴟面附白絲絨兜袖」には、鉄、真鍮、漆、革、正絹組紐といった多様な素材が用いられています。特に「白銀(はくぎん)」の表現には、純銀、Ag800、Ag700、白四分一(しろしぶいち)、上四分一、並四分一といった様々な銀合金が駆使されていると考えられます。これは、彼の専門とする「鍛金」という、金属を叩き延ばし成形する伝統的な技法と結びついており、金属素材が持つ「強い」特性を最大限に引き出しています。甲冑(かっちゅう)の構成要素である「兜(かぶと)」と「袖(そで)」は、古くから日本の武士が身につけてきた防具であり、その細部には高度な金属加工技術と、漆塗り、革細工、組紐といった多様な工芸技術が凝縮されています。本作品においても、これらの素材が持つ質感や光沢、そしてそれぞれの素材が伝統的に担ってきた役割を現代的な視点で再解釈し、巧みに組み合わせることで、新たな造形美を創出していると推測されます。
作品名にある「角鴟(かくち/みみずく)」は、作者自身によって「森の監視者」であるフクロウのイメージと重ね合わせられています。フクロウの暗闇でも見通す大きな目、優れた聴覚、そして音もなく森を飛び交う姿は、現代社会に遍在する「都市鉱山(としこうざん)」から回収された銀の持つ役割と結びつけられています。作者は、現代において電子部品の中に封入され、人々の目の届かない場所で静かに電気信号のやり取りを行い、人々の営みを陰から見守る銀の姿を、あたかもフクロウのようだと捉えています。本作品の「白銀」は、その都市鉱山の化身として、本来の比類なき美観をもって表舞台へと解放され、現代社会の静かな観察者としての意味が込められていると考えられます。また、「兜袖」という甲冑の形態は、古来より「自分を守りたい」「強さを宿したい」という人間の根源的な欲求や、ある種の変身願望を象徴するモチーフとして、作者の作品に繰り返し現れる主題でもあります。
塩見亮介の作品は、東京藝術大学大学院で培った鍛金技術を基盤としながら、伝統的な甲冑の概念を現代美術の文脈で再構築する独自のスタイルが評価されています。2019年には「岡本太郎現代芸術賞展」に入選するなど、現代美術界におけるその存在感は高まっています。本作品が展示されている「NHK日曜美術館50年展」は、「日曜美術館」の50年の歴史を彩ってきた名作・名品を紹介する大規模な展覧会であり、特に「工芸 伝統と革新」の章で、日本の優れた工芸の担い手として塩見の作品が選ばれたことは、彼の作品が伝統と現代を結ぶ重要な位置にあることを示しています。彼の作品は、伝統工芸の技術が単なる継承に留まらず、現代の素材やテーマ、精神性を融合させることで、いかに新たな表現の可能性を切り拓けるかを示すものとして、後進の作家や工芸・美術関係者に大きな影響を与えていると言えるでしょう。