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色絵薄墨玉すだれ文鉢

十三代今泉今右衛門

NHK日曜美術館50年展に展示された、十三代今泉今右衛門(じゅうさんだい いまいずみ いまえもん)作「色絵薄墨玉すだれ文鉢(いろえうすすみたますだれもんぱち)」は、1993年に制作された色絵磁器(いろえじき)の傑作であり、東京藝術大学に所蔵されています。この作品は、伝統的な色鍋島(いろなべしま)の技法に、十三代今右衛門が確立した独自の表現を加えることで、現代的な美意識を追求した一点です。

背景・経緯・意図

十三代今泉今右衛門は1926年に十二代今右衛門の長男として生まれ、1949年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)工芸科を卒業しました。彼は若い頃から創作的な色鍋島の制作に意欲を燃やし、現代的な視点からの色鍋島を追求しました。1975年に十三代今右衛門を襲名した後、伝統を継承しつつ、自身のオリジナリティを確立するため「染付吹墨(そめつけふきずみ)」や「薄墨吹墨(うすすみふきずみ)」といった新技法を開発しました。この「薄墨」の技法は、従来の鮮やかな赤、黄、緑を基調とする色鍋島の色彩概念を打ち破る大胆な発想であり、伝統の中に新たな柔らかさと奥行きをもたらすことを意図していました。本作「色絵薄墨玉すだれ文鉢」は、1993年に制作され、このような彼の新境地を代表する作品の一つとして位置づけられます。

技法や素材

「色絵薄墨玉すだれ文鉢」は、色絵磁器という技法で制作されています。色絵磁器とは、釉薬(ゆうやく)をかけて本焼きした磁器に、上絵具(うわえのぐ)で文様を描き、さらに上絵窯(うわえがま)で700〜800度という比較的低い温度で焼き付ける技法です。今右衛門窯は、江戸時代に鍋島藩の御用赤絵師(ごようあかえし)として色絵付けを専門に担ってきた伝統を受け継いでおり、その技術は日本磁器の最高峰の一つとされています。本作に用いられている主要な技法が、十三代今右衛門が確立した「薄墨(うすすみ)」です。これは、薄い墨色の絵具を吹き付けることで、ぼかしやグラデーション効果を生み出し、作品に静謐(せいひつ)で奥行きのある表現をもたらします。また、色鍋島の特徴である、青みのある「柞灰釉(いすばいゆう)」が器胎に施されていると考えられます。この「薄墨」技法により、伝統的な色鍋島の持つ華やかさに加え、繊細で幽玄な美が加味されています。

意味

作品名にある「玉すだれ文(たまごだれもん)」は、日本の伝統的な文様の一つです。「玉すだれ」という言葉は、草花のタマスダレや、日本の伝統芸能である南京玉すだれ(なんきんたまごだれ)を想起させます。日本の美術において、自然や季節の移ろいをモチーフとすることは多く、この文様も自然界の優美さや繊細さを象徴していると推測されます。そこに十三代今右衛門が独自に開発した「薄墨」の技法が加わることで、モチーフは単なる写実を超え、情感豊かな表現を得ています。薄墨の色調は、はかなさや奥行き、そして静かな時の流れを感じさせ、従来の力強い色彩とは異なる、詩的な意味合いを作品に与えていると考えられます。この作品は、伝統的なモチーフと革新的な技法の融合によって、見る者に自然の持つ繊細な美しさや、精神的な落ち着きを伝えることを意図していると言えるでしょう。

評価や影響

十三代今泉今右衛門は、その卓越した技術と革新的な表現が評価され、1989年には重要無形文化財「色絵磁器」保持者、いわゆる人間国宝(にんげんこくほう)に認定されました。彼が確立した「染付吹墨」や「薄墨吹墨」の技法は、伝統工芸展での優秀賞、日本陶芸展での秩父宮賜杯(ちちぶのみやしはい)、毎日芸術賞、日本陶磁協会金賞など、数々の栄誉ある賞を受賞し、高い評価を得ました。彼は伝統的な色鍋島の様式に現代的な要素を導入することに成功し、その後の有田焼、特に色鍋島の発展に大きな影響を与えました。彼の革新性は、息子である十四代今泉今右衛門(じゅうよんだい いまいずみ いまえもん)にも受け継がれ、「雪花墨はじき(せっかすみはじき)」や「プラチナ彩(さい)」といった新たな技法の開発へと繋がっています。十三代今右衛門の作品は、伝統技術の継承と現代的創造の融合を示すものとして、美術史において重要な位置を占めています。今回「NHK日曜美術館50年展」で紹介されることは、彼の作品が持つ文化的、芸術的価値の高さを示すものです。