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模造 金銀平脫八角鏡

吉田立斎

NHK日曜美術館50年展に出品された吉田立斎(よしだりっさい)の「模造 金銀平脫八角鏡(きんぎんへいだつはっかくきょう)」は、古代の高度な工芸技術を現代に蘇らせた優れた作品です。この作品は、1932年に銅を素材に鋳造(ちゅうぞう)され、漆塗(うるしぬり)の表面に金銀平脫の装飾が施された八角形の鏡で、現在は東京国立博物館に所蔵されています。

背景・経緯・意図

この作品が制作された1930年代は、日本の伝統工芸の保存と研究が活発に行われていた時代です。吉田立斎による「模造 金銀平脫八角鏡」は、奈良時代(ならじだい)に隆盛を極めたとされる金銀平脫鏡を精密に再現することを意図して制作されました。当時の美術界や学術界では、失われつつあった古代の技術や様式を再発見し、後世に伝えることの重要性が認識されており、こうした模造品の制作は、単なる複製ではなく、技術の継承と研究の一環として大きな意味を持っていました。作者は、古代の工芸技術の粋を集めたとされる金銀平脫の技法を現代に蘇らせ、その精巧さを追求することで、日本の豊かな美術史に対する敬意と、失われた技術を理解し保存しようとする強い動機を持っていたと推測されます。

技法や素材

本作は、銅製(どうせい)でありながら漆塗(うるしぬり)が施され、さらに金銀平脫という特殊な装飾技法が用いられています。まず、銅を鋳型に流し込む鋳造(ちゅうぞう)によって鏡の本体が形成され、その表面には漆が丹念に塗布されています。金銀平脫とは、金や銀の薄い板を文様(もんよう)の形に切り抜き、漆面に貼り付けた後、その上から透明な漆を幾度も塗り重ね、研磨(けんま)することで文様を浮き上がらせる、極めて高度な装飾技法です。この技法は、飛鳥(あすか)・奈良時代(ならじだい)の工芸品に多く見られ、当時の日本の高い技術水準を示すものです。吉田立斎は、この複雑な工程を忠実に再現することで、古代の工芸家の卓越した技術力と美意識を現代に伝えています。

意味

金銀平脫八角鏡のモチーフは、古代から魔除けや神聖な力を宿すものとして尊ばれてきた鏡と、縁起の良い形とされる八角形を組み合わせています。鏡は、古くから太陽や月、あるいは神の象徴とされ、祭祀(さいし)や権威を示す道具として用いられてきました。また、金銀平脫の技法によって施された文様は、当時の人々が抱いた生命力や永遠性といった願いを表現していると考えられます。本作が「模造」であるという点は、単に過去の様式をコピーするだけでなく、失われた美意識や技術を現代の視点から再解釈し、歴史と対話しようとする試みを象徴しています。これは、過去の文化遺産を現代に活かし、その意味を問い直す行為であり、模造品を通して古代の美が持つ本質的な価値を改めて認識させる役割を果たしています。

評価や影響

吉田立斎の「模造 金銀平脫八角鏡」は、その精巧な技術と古代への深い理解によって、発表当時から高い評価を受けたと推測されます。このような模造品の制作は、単なる複製を超え、日本の伝統工芸技術の保存と研究に大きく貢献しました。特に、高度な技術を要する金銀平脫の技法を正確に再現したことは、後の研究者や工芸家にとって貴重な資料となり、技術継承の重要な役割を担ったと考えられます。東京国立博物館に所蔵され、NHK日曜美術館50年展のような重要な展覧会で紹介されることからも、この作品が日本の美術史において、古代の美意識と現代の技術が融合した象徴的な存在として高く位置づけられていることが伺えます。その影響は、伝統工芸の復元研究や、現代における伝統技術の再評価にもつながっていると言えるでしょう。