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考える人

オーギュスト・ロダン

NHK日曜美術館50年展で展示されるオーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の傑作「考える人」は、1880年に制作されたブロンズ彫刻です。この作品は、人間精神の奥深さと普遍的な思索を象徴する、ロダンを代表する彫刻の一つであり、現在、静岡県立美術館に収蔵されています。

背景・経緯・意図

「考える人」は、元々、ロダンが生涯をかけて取り組んだ大作「地獄の門(じごくのもん)」の一部として構想されました。イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリ(Dante Alighieri)の「神曲(しんきょく)」を主題としたこの門の上部中央に、地獄の業火を見下ろしながら、詩人が人類の苦悩と運命について深く瞑想する姿として配置される予定でした。ロダンは、単なる人物像ではなく、人間の内面的な葛藤や精神活動を視覚的に表現しようと試みました。この時代は、アカデミズム(academism)の形式主義から脱却し、個人の感情や心理を重視する表現が求められ始めており、ロダンの作品はまさにその潮流を体現していました。

技法や素材

この作品に用いられている素材はブロンズ(bronze)です。ロダンは、粘土で原形を制作し、そこから型を取ってブロンズへと鋳造(ちゅうぞう)する伝統的な技法を採用しました。しかし、彼の作品は、その表面の仕上げに独特の工夫が見られます。滑らかに研磨された部分と、粘土の段階での筆致や指の跡を残したかのような粗いテクスチャー(texture)が共存しており、光の当たり方によって多様な表情を見せます。この独特の表面処理は、形に生命感を与え、感情の機微を表現するためのロダンならではの手法と考えられています。

意味

「考える人」のモチーフは、裸身(らっしん)の男性が顎(あご)に手を当て、深く思索にふける姿です。このポーズは、古代ギリシャ彫刻以来、思考や哲学を象徴する表現として用いられてきましたが、ロダンはこれに自身の解釈を加えました。彼は、肉体的な力強さと、精神的な集中という、一見すると相反する要素を一つの像に統合しました。この人物は、ダンテであると同時に、普遍的な「人間」そのものを表しており、苦悩、創造、哲学、そして存在そのものについて問いかける、人類共通の精神活動の象徴と解釈されています。

評価や影響

「考える人」は、「地獄の門」から独立して展示されるようになると、その力強い表現と深い内省的な主題が評価され、瞬く間にロダンの代表作として世界中で知られるようになりました。発表当時、その写実性と感情表現の豊かさは、当時の美術界に大きな衝撃を与え、彫刻における表現の可能性を大きく広げました。現代においても、この作品は思考や哲学の象徴として広く認識されており、世界各地に様々な大きさの複製が設置されています。美術史においては、ロダンが近代彫刻の扉を開いた主要な作家の一人として位置づけられる上で、「考える人」が果たした役割は非常に大きいと言えるでしょう。この作品は、後世の多くの彫刻家や芸術家たちにインスピレーションを与え、人間の内面世界を表現することの重要性を示し続けています。