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ジヴェルニーの池の前に正面を向いて立つクロード・モネ (Claude Monet Standing facing forward, in front of the Water Lilies, Garden at Giverny)

エティエンヌ・クレマンテル (Étienne CLÉMENTEL)

この作品は、フランスの政治家であり、画家、写真家でもあったエティエンヌ・クレマンテルが、1920年頃に撮影した「ジヴェルニーの池の前に正面を向いて立つクロード・モネ」です。このオートクローム写真は、現代のプリントとして、モネ没後100年を記念する「クロード・モネ ―風景への問いかけ」展で紹介されています。

作品の背景と制作意図

エティエンヌ・クレマンテル(1864-1936)は、フランスの第三共和政において複数の大臣職を歴任した政治家でありながら、芸術に対する深い情熱を持ち、自らも絵画を描き、写真家として活動しました。彼はまた、ロダンやモネといった同時代の著名な芸術家たちの友人であり、彼らの支援者でもありました。クレマンテルはクロード・モネの芸術を深く尊敬しており、モネのジヴェルニーの自宅と庭園を度々訪れています。

この一連の写真は、1917年から1920年頃に撮影されたとされています。特に1918年には、クレマンテルが首相ジョルジュ・クレマンソーに同行し、モネがフランス政府に寄贈する「睡蓮」の連作の選定のためにジヴェルニーを訪れた際に、オートクローム写真を撮影したという記録もあります。 クレマンテルの意図は、モネという芸術家を、彼が深く愛し、芸術的インスピレーションの源としたジヴェルニーの環境、特に「睡蓮」の池と庭園の中で捉えることにありました。 彼は、モネの色彩と光の扱いに魅了され、その印象派的な美学を自身の写真作品にも反映させようと試みていました。 これらの写真は、芸術家の世界を非公式な形で垣間見せる「友好的なルポルタージュ」として評価されています。

技法と素材

本作品は「オートクローム」という初期のカラー写真技法を用いて制作されました。オートクロームは、1903年にリュミエール兄弟が特許を取得し、1907年に初めて商業化された、世界初の商業カラー写真プロセスです。

この技法は、「加色法」に基づくモザイクスクリーンプレートプロセスであり、ガラス板に赤橙色、緑、青紫に染色された微細なジャガイモのでんぷん粒子を敷き詰め、その上に感光乳剤を塗布することで色を再現しました。 カメラには、ガラス面(フィルター層)をレンズ側に向けてプレートを装填し、光がでんぷんフィルターを通過して乳剤に達する仕組みでした。

オートクロームは白黒写真に比べて露出時間が非常に長く、そのため被写体は静止している必要があり、三脚の使用が不可欠でした。 この特性が、時に絵画のような柔らかな質感と、やや夢幻的な色彩をもたらし、モネの作品世界とジヴェルニーの庭園を捉える上で「完璧な媒体」となりました。 クレマンテルは、立体視が可能な小型のステレオオートクロームプレート(4.5 x 10.5cm)を、ヴェラスコープ・リチャードというカメラで撮影していました。 作品の「モダン・プリント」という記述は、オリジナルのオートクロームプレートから現代の技術で制作されたプリントであることを示します。

作品の意味

この写真は、晩年のクロード・モネの姿を、彼が自ら設計し、生涯をかけて創造し続けたジヴェルニーの庭園、特に彼が「睡蓮」シリーズを描き続けた池のほとりで捉えています。 モネにとって庭園は、光と色彩の絶え間ない変化を探求する生きたアトリエであり、彼はそのあらゆる側面を自らの手で管理していました。 この写真は、芸術家が自らの創造の源と一体となっている姿を視覚的に提示しており、モネと彼の芸術的宇宙との深い結びつきを象徴しています。

オートクローム技法が持つ、柔らかく絵画的な質感は、印象派の美学と共鳴し、写真が単なる記録ではなく、芸術的な解釈の手段となりうることを示しています。 この作品は、写真という媒体を通じて、色彩によって感情や感覚の世界を喚起する、モネの芸術の神髄を捉えようとしたクレマンテルの試みであると言えます。

評価と影響

エティエンヌ・クレマンテルが撮影したモネのオートクローム写真は、ロダンを捉えた一連の作品と同様に、近代芸術の巨匠たちの世界をカラーで垣間見せる貴重な資料として知られ、出版や展示を通じて広く紹介されてきました。

クレマンテル自身の芸術活動においても、モネの色彩と光の探求は大きな影響を与え、彼の絵画や写真にその影響が見られます。 オートクロームは、その後に登場する新しいカラー写真技術に取って代わられましたが、リュミエール兄弟に国際的な名声をもたらし、失われつつある世界を色彩で記録したユニークな資料として、その遺産は高く評価されています。 その絵画のような品質と独特の美学は、今日でも多くの人々を魅了しています。

本作品は、オルセー美術館のコレクションに収蔵されており、これまでにも「印象派と近代美術」(2000-2001年)、「モネのジヴェルニーの庭:風景の発明」(2009年)、「モネと抽象」(2010年)といった様々な展覧会で、そのモダン・プリントが展示されてきました。 今回、「モネ没後100年 クロード・モネ ―風景への問いかけ」展で展示されることは、この写真がモネの芸術と生涯を理解する上で重要な作品であるという評価を改めて示すものです。