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林忠正の面 (Mask of Hayashi Tadamasa)

アルベール・バルトロメ (Albert BARTHOLOMÉ)

アルベール・バルトロメ《林忠正の面》:ジャポニスムの時代に刻まれた、東洋と西洋の肖像

本作品、アルベール・バルトロメ作《林忠正の面》は、1892年にブロンズで制作され、高さ25.5cm、幅19.0cm、奥行き15.5cmの寸法を持つ彫刻です。この作品は、日本美術をヨーロッパに紹介し、ジャポニスムの立役者となった美術商、林忠正(1853-1906)の肖像であり、日仏の文化交流が盛んだった世紀末パリの空気を今に伝えています。

制作の背景と意図

林忠正は、1878年にパリ万国博覧会の通訳として渡仏して以来、パリに拠点を置き、日本美術商として活躍しました。彼は流暢なフランス語を操り、マネ、ドガ、モネといった印象派の画家たちとも親交を結び、浮世絵をはじめとする日本美術をヨーロッパに広く紹介する一方で、西洋美術を日本に紹介する役割も果たしました。その活躍により、林忠正は当時のフランス芸術界で広く知られた存在でした。

彫刻家アルベール・バルトロメ(1848-1928)は、エドガー・ドガの交流を通じて林忠正と出会ったと考えられています。バルトロメは林忠正の「エキゾチックな顔立ちに魅了され」、1892年、彼の肖像制作に着手しました。この作品の制作にあたり、バルトロメは、当時、日本彫刻の傑作の一つと見なされていた日本の能面から着想を得ています。能面を参考にしつつも、林忠正の顔立ちを写実的に捉えることで、肖像としての高い再現性も実現されています。

技法と素材

本作品はブロンズで鋳造されており、パリのオルセー美術館が所蔵するバージョンは、暖かみのある赤みがかったパティナ(古色)を特徴としています。他にも、カレーのレース美術館には黒いブロンズ製のものが、また個人コレクションや高岡市立博物館にも異なるバージョンの複製が所蔵されています。エドガー・ドガ自身もこのマスクの石膏版を所有していたことが知られています。ブロンズという素材は、その耐久性と、細部の表現を可能にする特性から、肖像彫刻において広く用いられています。

作品の持つ意味と評価・影響

《林忠正の面》は、単なる個人肖像にとどまらず、19世紀末のジャポニスムという現象を象徴する作品として、多層的な意味を持っています。能面からインスピレーションを得た技法は、当時の西洋における日本美術への深い関心と、その受容のあり方を示しています。また、この作品は、日本文化の紹介に尽力した林忠正という人物が、当時のフランス社会においていかに重要な存在であったかを物語っています。

1894年には、ブロンズ版が「国民美術協会サロン」に出品されており、当時の美術界における本作の評価の高さがうかがえます。オルセー美術館をはじめとする主要な美術館に所蔵され、研究対象となっていることは、本作の歴史的、美術史的な重要性を裏付けるものです。

「モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ」展における位置づけ

本作品が展示される「モネ没後100年 クロード・モネ ー風景への問いかけ」展は、印象派の巨匠クロード・モネの作品を中心に据えながらも、同時代の絵画、写真、浮世絵、アール・ヌーヴォー工芸品など、幅広い視覚表現との関連からモネの創作背景や動機を読み解くことを目的としています。展覧会には「ジャポニスム」のセクションも設けられており、林忠正はモネを含む印象派の画家たちと深い交流を持ち、ジャポニスムの普及に決定的な役割を果たしました。アルベール・バルトロメ《林忠正の面》は、このような広範な文化交流と、日本美術が西洋芸術に与えた影響を具体的に示す作品として、モネの時代背景と、当時の芸術家たちが受けた多様なインスピレーションを理解する上で重要な意味を持ちます。