リサ・ミルロイ
「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展に展示されているリサ・ミルロイの油彩画《フィンズベリー・スクエア》は、1995年に制作された作品です。本作品は、175.5 × 229.1 cmのカンヴァスに油彩で描かれています。
リサ・ミルロイは1959年カナダのバンクーバーに生まれ、パリのソルボンヌ大学で学んだ後、ロンドンのセント・マーチンズ美術学校とゴールドスミス・カレッジで美術を学びました。彼女はアングロ・カナダ人アーティストとして知られ、日常のオブジェを描いた静物画で1980年代に注目を集めました。この初期の作品では、靴や電球といった身近な品々をオフホワイトの背景に配し、静止と運動、存在と不在の関係性、そして絵画の制作と鑑賞の性質を探求する彼女の芸術実践の中心をなすテーマが示されています。1989年にはジョン・ムーアズ絵画賞を受賞し、2005年にはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの会員に選出されるなど、その功績が認められています。
1990年代に入ると、ミルロイのイメージは、独立したオブジェの描写から、背景のある情景、風景、建築物、人物、物語を含むものへと広がりました。この多様化は、彼女の絵画様式に新たな革新をもたらしました。 《フィンズベリー・スクエア》は、まさにこの転換期である1995年に制作され、建築物を主題とした作品の一つです。
本作品は、建物のファサード、特に窓に焦点を当てて描かれています。ミルロイ自身は、この作品について「窓が何かを覗き見る機会を提供しつつも、反射がそれを妨げるというファサードの複雑なありよう」を扱っていると語っています。鑑賞者の視線は常に表面に留まることになります。建物の中を見るというよりも、絵画の前面にある空間へと意識が向けられるのです。絵の上の部分に視線を移すと、窓には空が反射しており、あたかも空を横切る雲の動きそのものを切り取ったかのように見えます。 このように、作品は見る者に対し、窓に映り込む背景にこだわり、鑑賞という行為における表層と深層、可視と不可視の間の関係性を問いかけます。
使用されている技法は油彩であり、ミルロイは絵具との身体的な関わりを重視しています。彼女は、筆致、摩擦、テクスチャーといったジェスチュラルな絵具の置き方を通じて、心に抱くイメージと絵具の物質的な性質が協働する様子を探求しています。絵具を置いた後に一歩下がって作品を眺める際、「静寂」が訪れるという彼女の言葉は、制作と鑑賞の間の独特な関係性を示唆しています。
《フィンズベリー・スクエア》はテート美術館のコレクションに収蔵されており、そのことは作品が現代美術における重要な位置を占めていることを裏付けています。 今回「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展で展示されることで、1990年代の英国アートの革新的な軌跡を検証する文脈の中で、リサ・ミルロイの芸術実践とその貢献を再評価する機会となっています。 この展覧会では、ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)とその同時代のアーティストたちが、大衆文化、個人的な物語、社会構造の変化などをテーマに、絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションなど多様な手法で発表した独創的な作品群が紹介されています。