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ユニオン・ブラック

クリス・オフィリ

クリス・オフィリによる作品《ユニオン・ブラック》は、テート美術館が所蔵するコレクションを中心に、1980年代後半から2000年代初頭にかけての英国美術に焦点を当てた展覧会「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」において展示されています。

制作の背景・経緯・意図 クリス・オフィリは1968年、イギリスのマンチェスターでナイジェリア系の両親のもとに生まれ、YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)を代表する作家の一人として知られています。彼は自身の作品において、ブラック・カルチャー、聖書、ウィリアム・ブレイクの作品、そしてブラックスプロイテーション映画などから着想を得て制作を行ってきました。

作品《ユニオン・ブラック》は、2003年に第50回ヴェネチア・ビエンナーレのイギリス館で初めて発表されました。この際、建築家デイヴィッド・アジャイェとのコラボレーションにより、愛と解放をテーマにした赤、黒、緑を基調とする一連の絵画とともに展示されています。オフィリは、ロンドンにおける黒人たちの貢献を称え、また自身の初期のキャリアを支援したテート・ブリテンに対し、この旗を寄贈しました。この作品は2010年と2017年の「黒人歴史月間」にテート・ブリテンの屋根に掲げられています。オフィリは、最も複雑で困難な主題も、魅力的な方法で表現すれば受け入れられやすくなると語っています。

技法と素材 本作は2003年に制作され、素材にはポリエステルが用いられています。サイズは137 × 274 cmです。オフィリの作品全般に見られる特徴として、絵画の台座や仕上げに象の糞を使用することで知られています。象の糞は匂いや腐敗を防ぐために化学処理が施され、絵の具やビーズ、グリッターなどと組み合わせて用いられます。これは、植民地時代の狩猟対象であった動物の糞や、アフリカとヨーロッパの交易品であったビーズを通じて、自身のルーツや経験、アフリカ文化を表現する試みです。

作品の意味 《ユニオン・ブラック》は、イギリスの国旗であるユニオン・ジャックの赤、白、青の三色を、汎アフリカ主義運動で用いられる黒、緑、赤の三色に置き換えることで、英国旗を再構築しています。これらの色は、汎アフリカ旗のシンボルである「殉教者の血を表す赤」「肌の色の黒」「アフリカの土地の緑」を想起させ、アフリカ系の人々の解放と自由を訴えるメッセージを持っています。

この作品は、英国のアイデンティティ、植民地時代の歴史、そしてアフリカ系の人々が多く住み、働くロンドンという都市の国際的な構成について言及しています。国旗という国家主義を象徴するものを再解釈することで、人種問題や黒人の貢献に光を当て、華やかな文化の枠組みからこぼれ落ちる課題を浮き彫りにしています。

評価と影響 《ユニオン・ブラック》は、テート・ブリテンの屋根に掲げられるなど、その展示を通じて人種と国民的アイデンティティに関する重要な対話を促してきました。テート・ブリテンのアレックス・ファーカソン館長は、この旗が当時のロンドンの人々に共鳴をもたらすだけでなく、アフリカ系住民が多数を占める都市の国際的な構成を物語るものであり、より広い枠組みで重要であると述べています。また、英国のアイデンティティ、植民地時代の歴史、そして世界の芸術における英国の立ち位置についても語りかける作品であると評価されています。

本作品が展示されている「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展は、1980年代後半から2000年代初頭にかけてのイギリスが、失業率の悪化など社会的な緊張を経験する中で、当時の若手アーティストたちが既存の美術の枠組みに疑問を投げかけ、実験的な作品を発表した軌跡を検証するものです。クリス・オフィリは1998年にターナー賞を受賞しており、《聖母マリア》などの作品で物議を醸しつつも、挑戦的なテーマに取り組む姿勢で高い評価を得ています。《ユニオン・ブラック》もまた、この時代の社会問題への眼差しを示す作品として、YBAとその時代の英国アートの革新的な流れの中で重要な位置を占めています。