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裸の目

ギルバート&ジョージ

ギルバート&ジョージ《裸の目》

この度ご紹介する作品は、ギルバート&ジョージによる1994年制作の《裸の目》です。本作品は「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展にて展示されています。

制作背景・経緯・意図

ギルバート&ジョージは、ギルバート・プロッシュとジョージ・パサモアの二人組の美術家です。彼らは1969年に自らを「生きる彫刻(Living Sculptures)」と称し、自分たちの存在や日常の行動そのものをアートと位置づけるという革新的なコンセプトを掲げました。常にビジネススーツを着用し、二人一組で活動する彼らのスタイルは、イギリスらしさや一般の人々の日常の象徴でもあります。

彼らの作品は、しばしば社会が抱える問題や現代都市の様相を主題とし、時に風変わりで攻撃的、物議を醸すものとして知られています。 《裸の目》が制作された1990年代のロンドンは、失業率の上昇やエイズ危機など社会的な緊張感が渦巻く時代でした。このような背景の中で、彼らは死、希望、生、恐怖、セックス、金、人種、宗教といった根源的なテーマを探求し、知識の壁を越えて人々の人生に直接語りかける芸術を目指しました。 「裸の目」というタイトルは、おそらく彼ら自身の、あるいは鑑賞者への、世の中を先入観なくありのままに見つめることへの問いかけが込められていると解釈できます。

技法と素材

《裸の目》は、27点の白黒写真に手彩色を施し、パネルに貼り付けた大型のフォト・モンタージュ作品です。全体のサイズは253.8 × 639.9 cmに及びます。 ギルバート&ジョージは1970年代にはモノクロ写真を多用していましたが、1980年代以降は鮮やかな色彩を取り入れ、格子状の黒い線で区切られたステンドグラスのような巨大な作品群を制作するようになりました。 この作品も、その色彩豊かなフォト・モンタージュのスタイルを踏襲しています。彼らの作品には、花や手足、ストリートの若者たち、不良少年、知人のほか、ビジネススーツ姿の彼ら自身が登場することが多く、これらが大画面に配されることで、聖者たちを思わせるような構図を作り出しています。

作品の意味

ギルバート&ジョージの作品は、現代社会を形作る要素、特にロンドンの都市が持つ猥雑さや暴力性、人間の欲望といった、人々が目を背けがちな現実を直視することを促します。彼らは「ロンドンの偉大な汚れた年代記作家」とも評され、都市の「汚い路地」に深く分け入り、その残酷な側面さえも捉え、時に笑い飛ばすような視点で表現します。

彼らは、芸術が人々の人生について直接語りかけることを願い、「わたしたちの芸術は観客と私たちの図像との友情なのです」と述べています。 《裸の目》もまた、現代社会の現実や人間の存在の根源的な問いを、視覚的に力強く、そして直接的に鑑賞者に投げかけることを意図していると考えられます。

評価と影響

ギルバート&ジョージは、その挑発的かつ率直な作品によって常に物議を醸しながらも、現代美術において象徴的な存在として高い評価を得ています。彼らの「生きる彫刻」という概念は、その後の世代のアーティストにも大きな影響を与え、チャップマン・ブラザーズなどの作家にも影響が見られます。

本作品が展示される「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展は、1990年代の英国美術が世界的な注目を集めるきっかけとなったヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)とその同時代のアーティストたちの活動を検証する大規模な企画展です。 テート美術館のコレクションに収蔵されていることからも、《裸の目》がギルバート&ジョージの代表作の一つとして、また90年代英国アートの文脈においても重要な意味を持つ作品であることが示されています。 彼らは80代となった現在も創作活動を続けており、現代の混沌をどのように見つめ、表現し続けているかを示す決定的な存在として認識されています。