ルベイナ・ヒミド
現在開催中の「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展にて展示されているルベイナ・ヒミドの作品《二人の間で私の心はバランスをとる》は、1991年にアクリル絵具を用いてカンヴァスに描かれました。本作品は、縦121.8cm、横152.4cm、奥行き2.7cmのサイズで、力強い筆致と鮮やかな色彩が特徴です。
この作品は、1877年頃にジェームズ・ティソが制作した絵画《ポーツマス造船所》を再解釈したものです。原画では、ハイランド連隊の軍曹が二人の白人女性の間で恋愛相手を選んでいる様子が描かれていますが、ヒミドはこれを二人の黒人女性へと置き換えました。二人の女性のうちの一人はヒミド自身を、もう一人はアーティストのモード・ソルターをモデルにしている可能性が指摘されています。
ヒミドは、作品に描かれた女性たちが航海図を破り、その破片を船外へ投げ捨てる行為を「決起の呼びかけ」と表現しました。これは、白人男性によって伝統的に支配されてきた知識や航海の形式を拒否し、「もし黒人女性たちが集まり、地図や海図を破壊し始め、なされてきたことを元に戻そうとしたらどうなるか」という思索を具現化したものです。
ヒミドの制作活動は、歴史的正義の要求と深く結びついており、奴隷制度や植民地主義が現在にもたらす影響を考察しています。地図を破る行為は、奴隷貿易の航路を分断しようとする象徴的な試みとも解釈されます。また、本作はヒミドが「自分自身や他の黒人アーティストを英国絵画史に書き加える」試みの一部であり、フェミニストの視点からこの歴史的空白に取り組むものです。作品のタイトルは、二つの文化の間で生きる経験を示唆しており、女性たちは自らのルーツを誇りをもって示しながら、既存の構造を破壊しようとしています。
ヒミドは1980年代のブラック・アーツ・ムーブメントの一員であり、この運動は黒人アーティストに機会を創出し、彼らの作品発表を奨励することを目的としていました。彼女の作品は、歴史を通じての黒人の人々の強さを強調することが多いです。
作品はアクリル絵具が厚く塗られ、力強い筆致が特徴で、細部の描写は抑えられています。画面は、小さな灰色の船に乗った二人の黒人女性が、カラフルなアフリカンスタイルのドレスとヘッドドレスを身につけている様子を、船内からの視点で描いています。女性たちの間に積まれた色とりどりの物体は、航海図であることが示唆されており、彼女たちはそれを破って船外に捨てています。ヒミドは、作品におけるパターンや衣服の重要性を強調しており、これらは女性たちが互いに、そして鑑賞者に対して自身の個性を表現する手段となっています。女性たちは平面的な正面向きのスタイルで描かれていますが、船の形や波の遠近感によって奥行きが感じられる構成です。
この作品は、黒人女性たちが伝統的な権力の道具(地図や海図)を破壊することで主体性を発揮し、すべてが公平な新しい世界を創造しようとする姿を描いています。地図を破る行為は、抑圧的な歴史的物語を解体し、黒人女性のための新たな道や未来を切り開くものと解釈されます。
女性たちの身につけたカラフルなアフリカンスタイルの衣服は、彼女たちの出自への誇りと文化的アイデンティティを象徴しています。作品はまた、白人男性によって伝統的に管理されてきた知識や航海への批判、そしてリベラリズムが人種差別を永続させる役割を果たしていることへの批判を含んでいます。全体として、ヒミドの作品に共通する、歴史の中の黒人の人々の強さと回復力を示すものとなっています。
《二人の間で私の心はバランスをとる》は、「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展の出品作品として、90年代の英国美術におけるその重要性が認められています。ヒミドの作品は、人種差別が保守派だけでなくリベラリズムの中にも存在するという主張で評価されています。彼女の作品は、歴史的正義を求める革新的なイメージとされています。
本展では、ダミアン・ハーストやトレイシー・エミンといった「伝説的なスターアーティスト」とともにヒミドの作品が紹介されており、彼女がその時代の主要なアーティストの一人として位置づけられていることを示しています。作品は、移民問題や気候変動といった現代的な問題にも関連付けられて解釈されることがあります。