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1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン

フランシス・ベーコン

テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート展より、フランシス・ベーコンの「1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン」をご紹介します。

作品概要と制作背景

本作品は、1988年に制作されたフランシス・ベーコンによる油彩、アクリル画であり、3枚のカンヴァスからなる三幅対です。それぞれのカンヴァスは198 × 147.5センチメートルという大型のサイズで、テート・ブリテンに所蔵されています。この作品は、ベーコンの最もよく知られた代表作の一つである1944年制作の「ある磔刑の基部にいる人物像のための三習作」を、作家自身が1988年に再制作したものです。

ベーコンは、自身の主要な絵画を再制作することが度々ありました。1944年のオリジナル作品は、発表当時、ベーコンを戦後イギリスを代表する画家の一人としての地位を確立させた重要な作品です。 ベーコン自身は、かねてよりオリジナル作品の「より大きなヴァージョンを作りたいと考えていた」と語っていますが、再制作に至った明確な理由は不明な点もあります。 オリジナル作品の制作時には第二次世界大戦中であり、当時のヨーロッパに広がる不安感や、ベーコン自身の内面的な苦悩が反映されています。

技法と素材

「1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン」は、油彩とアクリル絵具がカンヴァスに用いられています。 各パネルのサイズは縦198センチメートル、横147.5センチメートルであり、これはオリジナルの1944年版の2倍以上の大きさにあたります。

特筆すべきは、オリジナル作品の鮮やかなオレンジ色の背景が、この第2ヴァージョンでは「血のような赤色」へと変更されている点です。 ベーコンは、オリジナルのオレンジ色が与えた「衝撃」が赤色によって薄れる可能性にも言及しています。 彼の作品全体に見られる特徴として、荒々しく大胆な筆致と生々しく不穏なイメージ、そして抽象的に描かれた人物像が挙げられます。 また、金箔を施した額縁とガラスの使用により、鑑賞者との間に距離感と奥行きを生み出す演出も、ベーコン作品の典型的な手法です。

作品が持つ意味

本作品は、苦悩、暴力、そして実存的な絶望といったテーマを深く探求しています。 描かれた歪んだ叫びの姿は、ギリシア神話に登場する復讐の三女神、エウメニデス(フューリーズ)にしばしば関連付けられ、虐げられた者たちの怒りや報復を暗示しています。

特に、オリジナル作品が制作された第二次世界大戦という時代背景は、当時の戦争による犠牲者の苦しみや理不尽さ、そしてそれに対する憤怒や嘆きを表現しようとするベーコンの意図を強く示唆しています。 ベーコンは、伝統的な磔刑図においてキリストを直接描かず、独自の視点からこの主題を再解釈しました。 批評家は、この「人間の姿に近いが、極端に歪められた有機体」とベーコンが表現した生物たちを「悪夢のようだ」と評しました。 第2ヴァージョンでは、より大きなキャンバスに人物が比例して小さく描かれることで、テート・ギャラリーのカタログによると、彼らが「深い虚無へと突き落とされている」かのような印象を与えています。

評価と影響

「1944年のトリプティク(三幅対)の第2ヴァージョン」に対する批評家の評価は賛否が分かれました。 一部の批評家は、より洗練された絵画技法が、作品が持つ本来の迫力を損なっていると感じました。 ベーコン自身も、これらの後期作品が十分な成果を上げられなかったと認めていたとされます。

しかし、そのオリジナルである1944年版は、1945年の発表時にセンセーションを巻き起こし、ベーコンを戦後の主要な画家の一人として確立させました。 美術批評家のジョン・ラッセルは、「『三つの習作』の前後で、イギリス絵画は混同できない」と評しています。 この作品に描かれた謎めいた生物のイメージは、後の映画監督デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』や、デザイナーH・R・ギーガーによる『エイリアン』の造形にも影響を与えたと言われています。 ベーコンは生涯にわたって三幅対の形式を好んで制作し、その数は大小合わせて数十点に及びます。 彼はトリプティクが最も好きな描画形式であると述べていました。