東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき
本展「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」は、東京都美術館の開館100周年という記念すべき節目に開催される、スウェーデン美術の「黄金期」を本格的に紹介する展覧会です。19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン絵画に焦点を当て、スウェーデン国立美術館の全面的な協力のもと、約80点の作品が日本に初めて集結します。
この展覧会は、若い世代の芸術家たちがフランスでの学びを経て、自国スウェーデンの雄大な自然や、そこに宿る独特の光、そして何気ない日常の中にひそむ輝きを、親密かつ情緒あふれる表現で描き出した作品群を通じて、北欧ならではの豊かな感性に迫ります。
本展のキーワードは「自然」「光」「日常のかがやき」です。これらのテーマを通じて、現代のスウェーデンを象徴するウェルビーイングな暮らしのルーツを作品の中に感じ取ることができるでしょう。展示作品はすべてスウェーデン人作家によるものであり、その多様な表現は、彼らが自国のアイデンティティと表現方法を真摯に模索した軌跡を示しています。
また、本展は「日本・スウェーデン文化科学交流年2026」の主要事業の一つでもあり、東京会場(東京都美術館:2026年1月27日〜4月12日)を皮切りに、山口県立美術館(2026年4月28日〜6月21日)、愛知県美術館(2026年7月9日〜10月4日)へと巡回が予定されています。 [URL, 41]
出品作家には、スウェーデンの国民的画家カール・ラーション、光の表現に長けたアンデシュ・ソーン、青を基調とした風景画で知られるウジェーヌ・ヤンソン、野生動物の描写を得意としたブルーノ・リリエフォッシュ、そして劇作家としても知られるアウグスト・ストリンドベリ、抽象絵画の先駆者ヒルマ・アフ・クリント、アンナ・ボベリといった、スウェーデン美術の黄金期を彩る重要な芸術家たちが名を連ねています。 [URL, 4, 8, 14, 20]
本展は、スウェーデン絵画の「黄金期」がどのように育まれ、展開していったかを、六つの章に分けて順路に沿って紹介します。来場者は、まるで北欧の光の中を歩むかのように、各章が織りなす物語を体験できる構成となっています。
展覧会の導入部では、19世紀半ばのスウェーデン美術が、フランスやドイツといったヨーロッパ大陸の主要な芸術動向からいかに影響を受けていたかを示します。当時、スウェーデンの画家たちは、ドイツのデュッセルドルフ美術アカデミーで風景画の特別授業を受け、ロマン主義的でドラマティックな自然描写を継承していました。一方で、1870年代に入ると、フランス印象派の明るい色彩表現がスウェーデン美術にも大きな影響を与え始めます。
この章では、自国のアイデンティティを示す画題と、それにふさわしい表現方法を模索し始めたスウェーデンの芸術家たちの初期の作品が展示され、彼らが伝統と革新の狭間で、いかにスウェーデン独自の芸術を追求し始めたのか、その黎明期の探求の様子を垣間見ることができます。
この章では、フランスで新しい絵画表現に触れたスウェーデンの芸術家たちが、その学びを携えて帰国し、自国ならではの芸術創造へと向かう過程が紹介されます。特に注目されるのは、パリ南東に位置するグレ=シュル=ロワンの芸術家村で活動した画家たちの存在です。
カール・ラーションもその一人であり、彼はこの地で明るい色彩と輪郭線を強調した独自の新しい様式を確立し、高く評価されました。 この時期の作品は、フランスの写実主義や自然主義の影響を受けつつも、彼ら自身の感情や叙情的な雰囲気を重視した、スウェーデン特有の表現へと発展していく兆しを見せています。アンデシュ・ソーンの初期作品やカール・ノードシュトゥルムらの作品を通じて、それぞれの画家が模索した独自の道筋を感じ取ることができるでしょう。
本展の中心的なテーマの一つである「日常のかがやき」が、この章で深く掘り下げられます。スウェーデン美術の黄金期において、画家たちは人々の温かい暮らしや家族の情景に光を当て、親密で幸福感に満ちた作品を数多く生み出しました。
特にカール・ラーションは、自身の家庭生活を主題に、妻カリンと子供たちが暮らす「リトル・ヒュットネス」の家での理想的な生活を色彩豊かに描写しました。彼の作品に見られる明るく温かい雰囲気は、貧しかった幼少期に彼が得られなかった愛と幸福を取り戻すかのような、ほのぼのとした感情を呼び起こします。 ラーション夫妻がデザインしたインテリアは、後の「スカンジナビアスタイル(北欧スタイル)」の起源の一つとも言われています。 ファンニ・ブラーテの作品「陽光」に描かれた赤いソファに寝そべる少女の姿のように、当時のスウェーデンの中産階級が抱いた理想的な生活風景もまた、この時代の日常の輝きを象徴するものです。
スウェーデンの絵画を語る上で欠かせないのが、北欧特有の光とその変化に富んだ自然の描写です。この章では、厳しくも豊かなスウェーデンの自然、そして移ろいゆく光が織りなす繊細な表情を捉えた風景画が展示されます。
ウジェーヌ・ヤンソンは、特にストックホルムの街の風景を、青を基調とした独自の色彩で描き出し、「ブルーアワー」と呼ばれる薄明かりの時間帯の神秘的な雰囲気を表現しました。 また、アンデシュ・ソーンは、水彩画において卓越した技術を発揮し、水面に反射する光や輝きを写実的に追求しました。彼の作品からは、光が持つエネルギーと透明感が鮮やかに伝わってきます。 北部の厳しい自然を描いたアンナ・ボベリの作品群も、広大な大地と光が織りなす壮大な叙情詩として、来場者の心に深く響くことでしょう。この章では、画家たちが自然に対して抱いた深い畏敬の念と、その感性が光と色彩によっていかに表現されたかを体験できます。
この章では、スウェーデン絵画の奥深さに触れることができます。北欧の自然には、神話や伝説、妖精といった神秘的な存在が宿ると信じられてきました。画家たちは、そうした自然信仰や内面的な精神世界を独自の解釈で表現しました。
ニルス・ブロメールの「草原の妖精たち」は、可憐で神秘的な少女たちの輪舞を描き、北欧の地に宿る精霊たちの存在を感じさせます。 また、キーリアン・ソルの「レットヴィックの夏至祭の踊り」は、祝祭の賑わいの中にどこか不穏な気配を漂わせ、北欧の夏が持つ独特の二面性を表現しています。
ブルーノ・リリエフォッシュは、野生動物の描写において並外れた才能を発揮しました。彼の作品は、動物たちの生態を克明に観察しつつも、単なる写実を超えて、彼らが持つ生命力や自然の摂理を生き生きと描き出しています。
劇作家としても知られるアウグスト・ストリンドベリの絵画は、パレットナイフを駆使した大胆なタッチと偶然の効果を取り入れた即興性、抽象性を特徴とします。 彼の作品は、内面的な葛藤や荒々しい自然の風景を通じて、深遠な精神世界を表現していると言えるでしょう。
そして、近年世界的に再評価が進むヒルマ・アフ・クリントの作品も紹介されます。彼女はワシリー・カンディンスキーよりも早く抽象絵画に取り組んだとされる、抽象芸術の先駆者の一人です。 神秘主義や霊的探求に深く傾倒し、交霊術の体験を通して生み出された彼女の抽象作品は、当時の美術界の常識をはるかに超えたものであり、内なるヴィジョンと宇宙の秩序を視覚化した、非常に独自性の高い芸術世界を提示しています。
展覧会の最終章では、スウェーデン美術の黄金期を築き上げた画家たちが、それぞれの個性的な表現を通じて、いかにスウェーデン美術の多様性を広げ、未来へと繋がる新たな地平を切り開いたかを総括します。
フランスで学んだ画家たちが帰国後、「スウェーデンをどう描くべきか」という問いに真摯に取り組んだ結果、写実的でありながらも穏やかで牧歌的な自然風景が数多く生み出されました。エウシェーン王子(Eugène Janssonとは別人)のように王族でありながら画家として活躍した人物の「静かな湖面」に代表される作品は、繊細でノーブルな光に満ち、理想化された自然の姿を描いています。
この章では、各画家の技法の探求、色彩の可能性、そしてテーマの深掘りがどのように結実し、スウェーデン独自の芸術表現を確立していったのかを多角的に検証します。約80点に及ぶ作品群は、1880年代から1915年にかけてのスウェーデン美術が、いかに豊かで創造的な時代であったかを雄弁に物語っています。 彼らの作品は、後の世代の芸術家たちにも大きな影響を与え、スウェーデン美術のさらなる発展へと繋がっていきました。
「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展は、東京都美術館の開館100周年を祝うとともに、日本・スウェーデン文化科学交流年2026を記念する、非常に意義深い展覧会です。 [URL, 4, 32, 41] スウェーデン国立美術館の全面協力により、日本で初めて本格的に紹介されるスウェーデン美術の「黄金期」の作品群は、私たちに北欧の豊かな文化と、人々の繊細な感性を伝えてくれます。
本展を通じて、来場者は、厳しいながらも美しいスウェーデンの自然、その中で育まれた独特の光の表現、そして家族や日常生活の中に息づく温かい輝きを、画家たちの親密で情緒あふれる筆致を通して体験できるでしょう。カール・ラーションが描いた理想的な家族の暮らし、ウジェーヌ・ヤンソンが捉えた神秘的なブルーアワー、アンデシュ・ソーンが表現した躍動する光、ブルーノ・リリエフォッシュの生命力あふれる野生動物、そしてアウグスト・ストリンドベリやヒルマ・アフ・クリントが探求した内なる精神世界は、それぞれが個性的でありながらも、北欧の人々の根底に流れる「自然と共に豊かに生きる」という普遍的な感性を共有しています。
この展覧会は、単に絵画を鑑賞するに留まらず、スウェーデンという国の文化や歴史、人々の価値観に触れる貴重な機会となります。展示された約80点の作品は、まさに「北欧の光、日常のかがやき」を体現しており、現代社会を生きる私たちにとっても、心豊かな生活を送る上でのヒントや、ウェルビーイングな暮らしのルーツを発見するきっかけとなることでしょう。 東京都美術館で繰り広げられる、スウェーデン美術の珠玉の輝きを、ぜひご自身の目でお確かめください。