カール・ノードシュトゥルム
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されているカール・ノードシュトゥルムの《チルケスンド》は、スウェーデンの近代風景画における重要な作品の一つです。
制作の背景と意図 カール・ノードシュトゥルム(1855-1923)は、スウェーデン・ブーヒュースレーン地方のショーン島ホーガに生まれ、その芸術性と個性は故郷の風景と深く結びついていました。彼は1880年代にフランスで学び、レアリスムや印象派の影響を受けました。特に1882年には、クリスティアン・クローグと共にパリで開催された第7回印象派展を訪れ、その後の作風に影響を与えています。また、北欧の芸術家が多く集まったフランスのグレ=シュル=ロワンに滞在し、自然を深く探求しました。帰国後、ノードシュトゥルムは1890年代にニルス・クルーガー、リッカルド・ベリと共にヴァールベリ派を結成し、総合主義的な様式を発展させました。
《チルケスンド》は、画家が長年にわたり夏を過ごしたスウェーデン西海岸のショーン島沖に位置するヘーロンの近くにあるチルケスンドを描いたものです。ノードシュトゥルムはこの地を数多く描きましたが、本作は「最も壮大な描写」と評されています。 作品の制作意図は、故郷の風景に対する画家の個人的な感情と、北欧特有の光の質を捉えることにありました。
技法と素材 本作は油彩で描かれたカンヴァス作品です。1911年に制作された国立美術館所蔵のバージョンは、絵画部分が縦122cm、横188cm、額装を含むと縦136.4cm、横205.2cmの大きさを持ちます。 ノードシュトゥルムの技法は、印象派の手法を取り入れつつ、彼独自のスタイルと鮮やかな色彩感覚が特徴です。 彼は1910年頃から印象派から総合主義へと移行しており、ゴーギャンやゴッホ、そして彼がパリで見た日本の芸術の影響を受けていたとされます。
作品に見られるのは、独特の黄昏時の光と、画家が用いた力強い色彩です。静かな漁村の素朴な木造家屋と絵のように美しい港が描かれ、海の豊かな青色と空の色彩が建物の温かみのあるアースカラーと美しく対比し、穏やかな郷愁の感覚を生み出しています。
意味と評価・影響 《チルケスンド》は、ノードシュトゥルムの作品の中でも特に、故郷ブーヒュースレーンの自然に対する深い愛着と感情的な反応を示すものです。彼の絵画は、季節のリズムや北欧の光の特質を鮮やかに捉え、見る者に静寂と瞑想的な落ち着きを与えます。
作品では、多くの船が停泊する中、一艘の帆船が静かに沖へと向かう姿が描かれ、どこか憂鬱な雰囲気を強調しています。 この情景は、北欧の厳しい自然や白夜の空、そして光と闇の対比といった北欧らしさを感じさせ、太陽の出ない時間が長い国だからこそ光への強い憧れやこだわりが表現されていると評価されています。
カール・ノードシュトゥルムは、スウェーデンにおける近代国民風景画の先駆者と見なされています。 彼の芸術は、20世紀初頭のスウェーデン風景画の形成に大きな役割を果たしました。また、彼は芸術家協会の会長を務めるなど、自身の創作活動だけでなく、スウェーデン美術の進歩を奨励し、同時代の芸術家たちを支援することで、活気に満ちた革新的な芸術コミュニティの育成に貢献しました。 《チルケスンド》は、ノードシュトゥルムの静かで素朴ながらも心に響く作品として、スウェーデン美術史において永続的な影響と高い評価を得ています。