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夜の訪れ

ニルス・クルーゲル

ニルス・クルーゲル作「夜の訪れ」

ニルス・クルーゲル(1858-1930)は、スウェーデンを代表する画家であり、特に風景画や田園風景を専門としました。彼の作品「夜の訪れ」は1904年に制作され、東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されます。

制作背景と意図 クルーゲルの芸術的キャリアは、スウェーデン王立美術院で始まったものの、病のため中断されました。その後、ストックホルムのエドヴァルド・ペルセウスの私立絵画学校で学び、1881年にはパリへ渡り、アカデミー・コラロッシでジャン=ポール・ローレンスに師事しています。パリでは印象派の「プレザネール(戸外制作)」技法を取り入れ、自然の光と色彩の瞬間的な描写を追求しました。この時期、フィンセント・ファン・ゴッホやポール・ゴーギャンの作品からも影響を受け、主観的な表現や感情的な共鳴を風景画に盛り込むことに着目しています。特に、ファン・ゴッホの描線や点描の使い方には強い関心を寄せ、後に自身の作品に取り入れています。

1887年にスウェーデンへ帰国後、彼はヴァールベリに居を構え、リチャード・ベリ、カール・ノルドストロムと共に「ヴァールベリ派」を結成しました。この運動は、単に自然を再現するのではなく、その「経験」、すなわち自然が持つ雰囲気、気分、そして見る者に与える感情的な影響を表現することを目的としていました。これは当時のリアリズム絵画に対する反動であり、ロマンティック・ナショナリズムへの傾倒を示しています。

クルーゲルは生涯を通じて、夜明けや夕暮れ時、霞や雨の中の風景を描くことを好みました。また、1896年にストックホルムに移住した後も、夏にはエーランド島を訪れ、馬や牛などの家畜を多く描いています。「夜の訪れ」が制作された1904年は、彼の画風が成熟期を迎えていた時期にあたります。

技法と素材 「夜の訪れ」は油彩で描かれたカンヴァス作品です。サイズは縦156cm、横200cmです。クルーゲルは、ファン・ゴッホの影響を受けた独自の技法として、明確な筆致や点描を用いて、地表や空の質感を表現し、作品の感情的な内容を深めました。彼の作品は、しばしば落ち着いた青、緑、茶色を基調とした繊細な色彩パレットが特徴で、静けさと内省的な感覚を生み出しています。薄い絵具の層を重ねることで、質感と深みを築き上げ、夜明けや夕暮れの幻想的な光の質感を卓越した技法で捉えています。

「夜の訪れ」では、夕日の光に照らされた丘の上の3頭の馬が、低い視点から描かれています。地と空は対角線状の筆致で描かれ、茶色と青の豊かなテクスチャーが画面に生み出されています。

作品が持つ意味 この作品は、「スウェーデンの夕暮れの穏やかな美しさを捉え」、鑑賞者を「時間が止まったかのような平和な世界」へと誘います。また、「印象派の本質を体現」しており、「穏やかな雰囲気」の中へと招き入れていると言えます。低い視点とテクスチャー豊かな筆致により、丘で草を食む3頭の馬が、あたかも「夕暮れの温かいオレンジ色の光の中に消えていく」かのように活き活きと描かれています。この絵は、自然と動物たちの間の仲間意識を表現しているとも評されます。クルーゲルの作品全体がそうであるように、「夜の訪れ」もまた、自然の気分、雰囲気、そして見る者に与える感情的な影響を伝えることを意図していると考えられます。

評価と影響 ニルス・クルーゲルの作品は、その生涯を通じて評価を得ており、ストックホルムの国立美術館、プリンス・エウシェン・ワルデマースウッデ、ヨーテボリ美術館などで展覧会が開催されました。彼の作品は、ヴァールベリ派の表現力を象徴するものとして、スウェーデンの風景画における礎石と見なされています。20世紀初頭のスウェーデンの芸術的アイデンティティを形成する上で重要な役割を果たし、後の世代の芸術家たちが自然を表現し、人間の感情を伝える新たな方法を模索する道を開きました。彼の絵画は、その静かな美しさ、喚情的な雰囲気、そしてスウェーデンの風景との深いつながりにおいて、現在も高く評価されています。作品「夜の訪れ」は、現在スウェーデン国立美術館に所蔵されています。

東京都美術館の展覧会「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」は、スウェーデンならではの厳しくも豊かな自然と、日常への温かい眼差しが作品に表現されていることを強調し、現代スウェーデンのウェルビーイングな暮らしのルーツを作品から感じ取ることを提案しています。