ニルス・クルーゲル
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示されるニルス・クルーゲル作「ハッランドの春」を紹介します。
この作品は、スウェーデンの画家ニルス・クルーゲルによって1894年に制作されました。油彩で描かれたこの作品は、木板に描かれた3枚の絵画が一体となったトリプティック(三連画)として構成されており、高さ45cm、幅37cmという寸法です。
ニルス・クルーゲル(1858-1930)はスウェーデン、カルマルに生まれ、生涯にわたり風景画と田園風景、特に家畜が描かれた作品を専門としました。彼は1874年にスウェーデン王立美術院で学び始めましたが、病のため中断し、その後はエドヴァルド・ペルセウスの私立美術学校で学びを再開しました。1881年にはパリに渡り、アカデミー・コラロッシでジャン=ポール・ローランスに師事しました。このパリ滞在期には、グレ=シュル=ロワンで戸外制作(プレイン・エア)に励み、印象派の影響を受けながら、夜明けや夕暮れ時、霞や雨の中の情景を描くことを好みました。
1887年にスウェーデンに帰国したクルーゲルは、ヴァールベリに居を構え、リッカルド・ベリ、カール・ヌードストロームと共に「ヴァールベリ派」を結成しました(1893-1896年)。 このグループは、当時の写実主義的な風景画への反動として、スウェーデンの象徴主義や国民的ロマン主義へと移行しました。ポール・ゴーギャンやフィンセント・ファン・ゴッホの作品、特に1893年にコペンハーゲンで展示されたゴッホの絵画から影響を受けたとされています。 「ハッランドの春」は、まさにこのヴァールベリ派の活動期である1894年に制作され、スウェーデンの自然と国民的アイデンティティへの深い結びつきを表現する意図が込められています。
クルーゲルは当初、戸外制作による光と大気の描写を重視しましたが、その後、独自の技法を発展させました。特にゴッホの素描に影響を受け、点描や短い線描を用いて大気現象(風、気温、湿度など)や感情的な内容を表現しました。 1900年以降には、より明るい色彩と大胆な筆致による色彩斑点を使用し、作品全体にモザイクのような表面質感を生み出すようになりました。 「ハッランドの春」は油彩で木板に描かれており、この時期の彼の特徴的な筆致によって、ハッランド地方の春の生命力あふれる色彩と魅力を捉えています。
「ハッランドの春」は、ハッランド地方の穏やかで牧歌的な春の情景を描写しており、スウェーデンの自然に対する深い愛着と国民的ロマン主義の精神を象徴しています。 鮮やかな色彩で表現された牧歌的な風景は、自然の再生と生命の輝きを伝えています。本展覧会のテーマである「北欧の光、日常のかがやき」に通じるものであり、スウェーデン人の自然と共に豊かに生きる感性を反映していると言えます。 作品の「静謐で牧歌的な情景」という描写は、鑑賞者に心の安らぎと自然への敬意を促します。
ニルス・クルーゲルは、スウェーデンの国民的ロマン主義を代表する画家の一人として高く評価されています。 ヴァールベリ派の一員として、スウェーデンの風景画に革新をもたらし、その後の芸術家に大きな影響を与えました。彼の作品はスウェーデン国立美術館をはじめとする主要な美術館に所蔵されており、その芸術的価値は広く認められています。 「ハッランドの春」のような作品は、クルーゲルがフランスでの学びを経て、母国の自然と日常の美しさへと目を向けた転換期を象徴するものであり、スウェーデン美術史における重要な位置を占めています。彼の革新的な技法と感情豊かな風景描写は、後続の画家たちにも影響を与え続けています。