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川辺の冬の夕暮れ

グスタヴ・フィエースタード

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示される、グスタヴ・フィエースタードの作品「川辺の冬の夕暮れ」を紹介します。


グスタヴ・フィエースタード「川辺の冬の夕暮れ」

グスタヴ・フィエースタード(1868-1948)は、スウェーデンを代表する画家の一人であり、特に雪に覆われた冬の風景画で知られています。彼が1907年に制作した油彩画「川辺の冬の夕暮れ」は、冬の静寂に包まれた川辺の情景を描いた作品です。

制作背景と意図

19世紀末から20世紀初頭にかけて、多くの若いスウェーデン人芸術家たちはフランスで写実主義を学びました。しかし、彼らは帰国後、スウェーデンの独自性を表現する芸術を模索し、自国の豊かな自然や身近な人々の暮らし、そして日常に潜む輝きを、親密かつ情緒豊かな表現で描き出すようになりました。

フィエースタードもその一人であり、彼にとって冬の風景は北欧のアイデンティティを象徴する重要なモチーフでした。彼はヴェルムランド地方のラッケン湖畔を拠点とした芸術家集団「ラックスタッド・グループ」の中心人物として活動し、スウェーデンの自然と深く結びついた「サンテティスム(総合主義)」の一派を発展させました。都市生活から離れ、手つかずの自然の中で新たな芸術的ビジョンを追求した彼らの姿勢は、「川辺の冬の夕暮れ」にも色濃く反映されています。この作品は、彼が深く愛したスウェーデンの風景に対する、極めてロマンティックな解釈を示すものと言えます。

技法と素材

本作はカンヴァスに油彩で描かれており、サイズは151 x 185.8 cmです。フィエースタードは、写実的な描写と高い様式化を融合させる技法を特徴としました。彼は広大なパノラマではなく、自然の一部をクローズアップして大胆に切り取る構図を好んでおり、これは日本の浮世絵からインスピレーションを得たものとされています。

「川辺の冬の夕暮れ」においては、凍てつく川面に夕暮れの光がやわらかく反射し、雪に覆われた岸辺と木々が、静謐で冷涼な雰囲気を生み出しています。作品の表面は、色彩の層とユーゲントシュティール(アール・ヌーヴォー)に影響を受けた直線的なパターンによって強調されており、錯覚的な現実感と装飾的な形式美を両立させています。また、光と影の巧みな表現は、作品に神秘的な質感を付与し、キャンバスから放たれるような淡く輝く光を描き出しています。

作品が持つ意味

本作品は、凍てつく川辺の冬の夕暮れという具体的な情景を通して、自然の力強さと同時に存在する、はかなくも繊細な美しさを表現しています。1900年頃の北欧において、冬の風景は北欧のアイデンティティの象徴としての深い意味を持つようになりました。フィエースタードの作品は、厳しくも美しいスウェーデンの冬が持つ「静謐」や「瞑想」の感覚、そして北欧特有の黄昏や夜明けの繊細な光を捉え、見る者をその世界へと引き込みます。それは、自然と共に豊かに生きる北欧ならではの感性、そして現代のスウェーデンに息づくウェルビーイングの精神の源泉を、作品の中に感じさせるものです。

評価と影響

グスタヴ・フィエースタードは、スウェーデン国内では高く評価されている一方で、国外ではその名が広く知られているとは言えませんでした。しかし、彼の作品はストックホルムのスウェーデン国立美術館をはじめ、アメリカのトレド美術館やパリのオルセー美術館など、世界の主要な美術館に収蔵されています。

「川辺の冬の夕暮れ」は、スウェーデン国立美術館が所蔵するフィエースタードの代表作の一つとして、現在開催されている東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展で展示されています。スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン美術の黄金期を本格的に紹介する日本初のこの大規模な展覧会において、本作品は、北欧の厳しい自然の中に見出される繊細な美と、その中で育まれた独自の芸術表現を象徴する作品として、重要な位置を占めています.