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静かな湖面

エウシェーン王子

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示されるエウシェーン王子の作品「静かな湖面」をご紹介します。

作品概要

「静かな湖面」は、1901年にスウェーデンの画家であるエウシェーン王子(1865-1947)によって制作された油彩画です。スウェーデン語では「Det lugna vattnet」と称され、現在はスウェーデン国立美術館に所蔵されています。

制作背景と意図

エウシェーン王子は、スウェーデン国王オスカル2世の四男として生まれながらも、王族としての責務よりも芸術の道を志しました。 彼は1887年から2年間パリに留学し、レオン・ボナやピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌらのもとで学びました。特にピュヴィス・ド・シャヴァンヌの古典的な簡素さは、王子の作風形成に大きな影響を与えたとされています。

初期にはフランスで学んだレアリスムや自然主義に傾倒しますが、やがて自身の感情や叙情的な雰囲気を重視した独自の表現方法を確立していきます。 王子は生涯を通じて風景画に専念し、ストックホルム周辺やメーラレン湖畔、あるいはスウェーデン南部のヴェステルイェートランドやスコーネ地方といった自国の風景を主要な題材としました。 「静かな湖面」は、スウェーデン美術の「黄金期」とされる19世紀末から20世紀初頭にかけて、多くの芸術家がスウェーデン固有のアイデンティティを自然の中に求めた「国民的ロマン主義(ナショナル・ロマンティシズム)」の潮流の中で生み出されました。 この作品もまた、スウェーデンの自然が持つ叙情性や神秘性を表現しようとする王子の深い内省と故国への愛情を背景に制作されたものと考えられます。

技法と素材

この作品は油彩、カンヴァスで描かれています。 描写されているのは、木々に囲まれた小さな湖が夕暮れの薄暗い光の中にたたずみ、空には不穏な雲が立ち込める情景です。 「静かな湖面」というタイトルが示す水面の静けさと、一方で「脅威的な空」という形容が示唆する不穏な雰囲気が対照的に描かれ、色彩と筆致によって感情的な奥行きが表現されています。王子の作品は、風景を通して鑑賞者の心に直接語りかけるような、力強い情感を特徴としています。

作品が持つ意味

「静かな湖面」は、単なる風景描写に留まらず、スウェーデンの自然が持つ神秘的な美しさと、そこに見出される内面の感情とが結びついた作品として解釈されます。静かに広がる湖面は、深い精神性や瞑想的な状態を象徴し、一方、空に広がる雲は、人生における困難や内面の葛藤を示唆している可能性があります。この対比は、エウシェーン王子が風景の中に人間の感情や精神世界を投影しようとした姿勢を如実に表しています。

評価と影響

エウシェーン王子は、画家としてだけでなく、同時代の芸術家たちの指導者や有力なアートコレクターとしてもスウェーデン芸術界に多大な影響を与えました。 彼の作品は、スウェーデン独自の風景画の確立に貢献し、国民的ロマン主義を牽引する存在として高く評価されています。 王子が蒐集した膨大なコレクションと彼自身の邸宅ヴァルデマシュウッデは、彼の死後、国に遺贈され、現在「エウシェーン王子ヴァルデマシュウッデ美術館」として一般に公開され、ストックホルムで最も人気のある美術館の一つとなっています。 「静かな湖面」も、彼の代表的な風景画の一つとして、スウェーデン美術史において重要な位置を占めています。

この展覧会は、東京都美術館開館100周年を記念する特別展として、スウェーデンの豊かな自然と日常の輝きを通して、北欧ならではの感性に触れる貴重な機会を提供します。