リッカッド・バリ
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示される、リッカッド・バリの作品『ウップランド地方、ウースビホルムの夏の夜、月の出』についてご紹介します。
この作品は、スウェーデンの画家スヴェン・リチャード・ベルイ(Sven Richard Bergh、1858-1919)によって描かれたものと考えられます。画家名の「リッカッド・バリ」は、スヴェン・リチャード・ベルイの日本語表記または通称である可能性があります。ベルイは19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン美術の黄金期を代表する画家の一人であり、特に「北欧の光」と称される独特の風景表現や「ムード絵画(stämningsmåleri)」という概念を提唱しました。
背景・経緯・意図 ベルイの作品は、フランスでのアカデミスムや自然主義の学習を経て、自国のアイデンティティを表現するスウェーデンらしい芸術の創造を目指した、当時の若い世代の芸術家たちの動きの中に位置づけられます。彼らは自然や身近な人々、日常にひそむ輝きを、親密で情緒あふれる表現で描き出しました。ベルイは特に、風景を通して人間の内面的な感情や精神性を表現しようとしました。彼が提唱した「ムード絵画」は、単なる写実的な描写に留まらず、鑑賞者の心に直接訴えかけるような感情的な雰囲気や叙情性を重視した絵画スタイルです。
北欧の夏は日照時間が長く、特にスウェーデン北部では太陽が沈まない「白夜」の現象が見られます。この作品のタイトルにある「夏の夜、月の出」という情景は、白夜の時期の神秘的で長く続く薄明かりの夜を想起させ、北欧の自然が持つ特別な光の表現と深く結びついています。
技法や素材 ベルイは印象派の影響を受けつつも、それに傾倒することなく、写実主義的な技法で対象を捉えながら、風景に個人的な感情や象徴的な意味を込めることを好みました。彼の作品には、しばしば静かで瞑想的な雰囲気が見られます。 「北欧の光」と呼ばれる表現は、その独特な光の描写に特徴があります。例えば、静穏な水面に反射する光や、森の背景に広がる夕暮れのオレンジ色の光が、画面に青みがかった色調を加えることがあります。
意味 『ウップランド地方、ウースビホルムの夏の夜、月の出』は、ウップランド地方のウースビホルムという具体的な場所を描写しつつ、単なる風景画としてだけでなく、北欧の夏の夜が持つ神秘性や、そこから喚起される人間の感情を表現していると考えられます。月が昇る夏の夜の情景は、移ろいゆく時間の中での静寂、そして自然の雄大さとそれに対する畏敬の念を象徴している可能性があります。 この作品は、長く厳しい冬を過ごす北欧の人々にとって特別な存在である太陽や光、そして夏の訪れへの喜びや、短い夏の間に自然から最大限の恵みを享受しようとする彼らの感性を反映しているとも解釈できます。
評価や影響 スヴェン・リチャード・ベルイは、スウェーデンの近代絵画史において重要な位置を占める画家であり、彼の提唱した「ムード絵画」は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン美術の方向性を決定づける上で大きな影響を与えました。彼の作品は、その後のスウェーデンの芸術家たちにも影響を与え、「北欧の光」という独特の美意識を確立する一助となりました。近年、スウェーデン国外でも大規模な展覧会が開催されるなど、世界的に再評価が進んでいます。