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テューン島のホーガ盆地

カール・ノードシュトゥルム

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されているカール・ノードシュトゥルムの作品、「テューン島のホーガ盆地」について紹介します。

カール・ノードシュトゥルム作「テューン島のホーガ盆地」

制作背景・経緯・意図

カール・ノードシュトゥルム(1855-1923)は、スウェーデン・テューン島出身の風景画家です。1875年にストックホルムの王立美術アカデミーで学び、1881年にはパリへ渡り、翌1882年には第7回印象派展を訪れて印象派の影響を受けました。彼は、芸術家が多く集まったフランスのグレ=シュル=ロワンに滞在し、光の移ろいや分割された色彩といった印象派の技法を習得しました。

しかし、ノードシュトゥルムはアカデミーの保守的な方針に反対する「反対派(Opponenterna)」の一員となり、1886年からは「芸術家協会(Konstnärsförbundet)」の主要メンバーとして活動し、1896年から1920年まで会長を務めました。この協会は、伝統的なアカデミズムから離れ、スウェーデン独自の芸術表現を確立することを目指しました。

「テューン島のホーガ盆地」が制作された1897年頃は、ノードシュトゥルムがリッカルド・ベリ、ニルス・クリューガーとともにヴァールベリで活動し、「ヴァールベリ派」として総合主義的な様式を発展させていた時期に当たります。この総合主義は、ゴーギャンや日本の美術からの影響を受けていました。彼はスウェーデン美術にジャポニスムの要素をいち早く取り入れた画家の一人でもあります。

本作は、ノードシュトゥルムが生まれ育ったテューン島のホーガ盆地を描いており、故郷の風景を通してスウェーデンのナショナルな感情やアイデンティティを表現しようとする意図が込められています。

技法と素材

「テューン島のホーガ盆地」は油彩で描かれたカンヴァス作品です。本作では、印象主義から発展した総合主義的な技法が用いられています。風景の上空には厚い雲が立ち込め、谷に深い影を落とす情景が、大きく塗り分けられた色彩で表現されています。これは、特定の瞬間的な光景を捉える印象派の手法と、単純化された形と色彩で感情や内面を表現する総合主義的なアプローチの融合を示しています。彼の作品には、日本の木版画に見られるような、手前に鳥が止まった枝を描いて遠景との対比を生む構図など、ジャポニスムの影響も指摘されています。

作品が持つ意味

この作品は、ノードシュトゥルム自身の故郷であるテューン島のホーガ盆地を描くことで、画家とスウェーデンの自然との深い繋がりを象徴しています。重厚な雲と影に覆われた谷の描写は、単なる写実を超え、北欧特有の雰囲気や感情、風景の内面的な輝きを映し出そうとしています。これは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランスでレアリスムや印象主義を学んだスウェーデンの画家たちが、帰国後に自国の自然や日常を主題に、情緒あふれる表現でスウェーデンらしい芸術を追求した動きを体現しています。

評価と影響

「テューン島のホーガ盆地」は、制作された翌年の1898年にはストックホルム国立美術館に購入されており、その芸術的価値は早期に認められていました。カール・ノードシュトゥルムは、芸術家協会の中心人物であり、ヴァールベリ派のリーダーとして、スウェーデン美術の「黄金時代」において重要な役割を果たしました。彼の作品、特に「テューン島のホーガ盆地」のような郷土の風景を描いた作品は、アカデミズムからの脱却を目指し、スウェーデン独自の芸術様式を確立する上で大きな影響を与えました。彼の「北欧の光、日常のかがやき」を捉える感性は、後世の画家たちにも影響を与え、スウェーデン絵画史における重要な位置を占めています。