カール・ラーション
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展で紹介されるカール・ラーションの作品《作家アウグスト・ストリンドバリ》は、スウェーデンの二人の文化史上の巨頭、画家カール・ラーションと作家アウグスト・ストリンドベリの複雑な関係性を象徴する肖像画です。
制作の背景・経緯・意図 本作品は1899年に制作されました。カール・ラーション(1853-1919)は、スウェーデンを代表する国民的画家であり、特に自宅での幸福な家族生活を描いた水彩画で知られています。一方、アウグスト・ストリンドベリ(1849-1912)は、劇作家、小説家としてスウェーデン近代文学を牽引した人物です。ラーションは初期にはストリンドベリの著書『スウェーデン人の日常生活』の挿絵を手がけるなど、両者は友人関係にありました。
しかし、その関係は後に悪化します。ラーションとストリンドベリは異なる政治的見解を持つようになり、友情は決裂しました。さらに、ストリンドベリが自身の著書の中でラーション夫妻を不快な形で登場させたことが、決定的な亀裂を生んだとされています。ストリンドベリはラーションの作品に見られる「牧歌的な幻想」を批判しました。
この肖像画は、まさにラーションが自邸「リッラ・ヒュットネース」での生活を描いた画集『わたしの家』を出版し、その名声が確立されつつあった時期と重なります。そうした背景の中、ラーションがストリンドベリをどのように捉えていたのか、あるいは彼らの間に存在した敬意と確執がどのように表現されているのかが、作品鑑賞の重要な鍵となります。この絵は、スウェーデン文化における最も著名な二人の関係性を描いているとされています。
技法と素材 カール・ラーションは、「世界の偉大な水彩画家の一人」として知られています。彼は1882年にパリ郊外の芸術家村グレー=シュル=ロワンで転機を迎え、それまでの重厚な油彩画から、より軽やかで明るい水彩画へと移行しました。
彼の特徴的な画風は、「詳細でやや様式化されたモチーフ。明確な輪郭線と鮮明な色面が組み合わされている」と評されます。正確なデッサン力を基に、細い筆でモチーフの輪郭線を描き、その中に明るい色彩を薄く施す技法を用いていました。本作品も彼のそうしたスタイルが反映されており、アール・ヌーヴォー(モダン)様式に分類されることがあります。
意味と評価・影響 この作品は、カール・ラーションとアウグスト・ストリンドベリという、スウェーデン文化史における二人の象徴的な人物の関係性を視覚的に表現しています。ラーションは、自身の貧しい幼少期の反動からか、明るく幸福な家族の日常をテーマに作品を制作し、その幸福感が人々の共感を呼び人気を博しました。彼の作品は、後にアーツ・アンド・クラフツ運動やスカンディナビアスタイルの起源にも影響を与えたと言われています。
一方、ストリンドベリは、ラーションの描く「理想的な家庭生活」が現実の複雑さを覆い隠していると批判しました。このような対立があったからこそ、ラーションがストリンドベリをどのように描いたのかという点が、作品の深い意味を読み解く上で重要となります。作品は、単なる肖像画としてだけでなく、両者の思想や芸術観、そして個人的な感情の交錯をも映し出すものとして評価されるでしょう。