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ワンダーランド

アウグスト・ストリンドバリ

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示されている、アウグスト・ストリンドバリの作品「ワンダーランド」について紹介します。この展覧会は、スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン美術の黄金期を約80点の作品でたどる、日本初のスウェーデン絵画に特化した展覧会です。劇作家として知られるアウグスト・ストリンドバリも、今世界で注目される作家の一人として紹介されています。

作品概要と制作背景

アウグスト・ストリンドバリによる油絵「ワンダーランド」は、1894年に制作されました。スウェーデン語では「Underlandet」とも呼ばれるこの作品は、ストリンドバリの絵画作品の中でも特に重要なものの一つとされています。 この作品は、彼が新婚の妻フリーダ・ウルと共にオーストリアのドルナッハに滞在していた時期に描かれました。同時期に彼は芸術における偶然性について論じたエッセイ「新しい芸術の方向性!あるいは芸術的創造における偶然」を執筆しており、その思想が作品にも反映されていると考えられます。 当初、ストリンドバリは「日没の海が見える森の中」を描こうとしましたが、制作の過程で森は洞窟へと変化していきました。

技法と素材

「ワンダーランド」は、厚紙に油彩で描かれており、サイズは73 × 53cmです。 ストリンドバリの絵画は、パレットナイフを用いた厚塗りの大胆なタッチ、そして偶然の効果を取り入れた即興性や抽象性を特徴としています。 「ワンダーランド」では、精巧な筆致とアースカラーが用いられています。

作品の意味と解釈

この作品は、その時々の心理状態や生活の変化を作品に投影するストリンドバリの制作姿勢を強く示しています。 彼は自身の内面的な世界を象徴的に表現しており、森が洞窟へと姿を変えたように、心の奥底に潜む感情が視覚化されています。 ストリンドバリにとって絵画は、言葉が機能しなくなったときに現れる「もう一つの出口」であったと指摘されています。そのため、完成度や美しさよりも、切迫した内面の状態がそのまま表れているかのように見えます。 「ワンダーランド」は自然の風景を描きながらも、鑑賞者の感情を呼び起こし、独特の視点を提供する力を持つと評されています。

評価と影響

「ワンダーランド」は、ストックホルムの国立美術館に収蔵されており、1992年以来、その貴重なコレクションの一部となっています。 ストリンドバリは長らく劇作家としての名声が先行していましたが、近年では彼の絵画作品が20世紀の様々な前衛芸術運動の先駆として再評価され、世界的に注目を集めています。 彼の作品は高額で取引されており、2022年には「波 IV」が約9億8000万円で落札された例もあります。 「ワンダーランド」は、クロード・モネが目の前の光景を描きとめようとしたのに対し、ストリンドバリが自身の心理状態で作品を変化させるという、対照的な創作アプローチを示す興味深い作品として紹介されています。 この作品は、日常生活から一時的に離れ、美と驚きに満ちた世界へと誘う力を持つと評価されています。