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馬車のいる荒地の風景

カール=フレードリック・ヒル

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示されるカール=フレードリック・ヒルによる作品「馬車のいる荒地の風景」を紹介します。

カール=フレードリック・ヒル「馬車のいる荒地の風景」

作品の背景・経緯・意図

スウェーデンの風景画家カール=フレードリック・ヒル(1849-1911)は、故郷ルンドで生まれ、ストックホルムの美術アカデミーで学んだ後、1873年から1881年にかけてパリで研鑽を積みました。この時期、彼はコローやフランス印象派の影響を強く受け、写実的でありながらも情感豊かな表現主義に近い風景画を描くようになります。画家が精神病を発症し故郷に戻る1878年以前の作品は、彼が「風景画の大家」として才能を開花させた時期に位置づけられます。 「馬車のいる荒地の風景」は、こうした背景の中で制作されたと推測され、スウェーデン固有の自然への深いまなざしと、それを独自の感性で表現しようとする画家の意図が込められています。当時のスウェーデンの若い芸術家たちは、フランスで学んだレアリスムの技法を故郷へ持ち帰り、自国のアイデンティティを示すべく、自然や日常の輝きを親密かつ情緒豊かに描き出すことを目指していました。本作品も、広大な荒野に一台の馬車が佇む情景を通して、厳しくも豊かな北欧の自然と、そこにあるささやかな日常の営みを静かに提示しています。

技法・素材

本作品「馬車のいる荒地の風景」は、油彩画、カンヴァスを主な素材として制作されたと考えられます。カール=フレードリック・ヒルのこの時期の作品には、1877年の「花咲くリンゴの木」が油彩、カンヴァスで描かれていることが確認されており、同様の技法と素材が用いられたと推測されます。 油彩は、油性の顔料を使用するため乾燥が遅く、絵具を重ね塗りしたり、色を混ぜ合わせたりすることが容易であるという特性を持っています。これにより、画家は緻密な描写や豊かな色彩表現を可能にしました。ヒルの作品に見られる柔らかい筆致は、こうした油彩の特性を活かし、写実性とみずみずしい情感を両立させることに貢献しています。

作品の意味

「馬車のいる荒地の風景」は、スウェーデンの広大な荒野という、ときに荒々しくも雄大な自然の中に、一台の馬車という人間生活の痕跡を配することで、自然と人間との関わりを象徴的に表現しています。馬車は、荒野を行く旅路、あるいは日常の移動手段として、そこに生きる人々の営みを暗示します。同時に、広大な自然の中で小さく存在する馬車の姿は、人間の存在のささやかさと、それを取り巻く自然の圧倒的なスケールを対比させ、観る者に内省を促します。 本作品は、東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展のキーワードである「自然」「光」「日常のかがやき」を体現しており、自然と共に豊かに生きる北欧ならではの感性を感じ取ることができます。

評価・影響

カール=フレードリック・ヒルは、スウェーデンを代表する風景画家の一人として高く評価されています。彼の作品は、スウェーデン国立美術館をはじめ、イェーテボリ美術館、ヴァルデマシュウッデ美術館などに収蔵されており、特にマルメ美術館には彼のコレクションが多く集められています。 「馬車のいる荒地の風景」を含む彼の初期の風景画は、写実性と深い情感を兼ね備え、後世の画家たちにも影響を与えました。彼が生涯を通じて描いた風景画は、スウェーデンの美術史における重要な位置を占めています。近年では、彼が精神病を患った後に描いた幻想的な作品群にも注目が集まっており、その多面的な芸術性が再評価されています。 本展覧会は、19世紀末から20世紀にかけてのスウェーデン美術の黄金期を本格的に紹介するものであり、カール=フレードリック・ヒルの「馬車のいる荒地の風景」は、この時代のスウェーデンの芸術家たちが探求した、自国のアイデンティティと自然への愛着を示す貴重な作品として、多くの来場者に感銘を与えることでしょう。