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最後の人類

カール=フレードリック・ヒル

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されている、スウェーデンの画家カール=フレードリック・ヒルによる作品『最後の人類』について紹介します。

作品の背景と制作意図

カール=フレードリック・ヒル(1849-1911)は、数学教授の息子として生まれ、父の意に反して画家を志しました。彼はストックホルムの美術アカデミーで学んだ後、フランスへ渡り、バルビゾン派やカミーユ・コローの影響を受けながら、叙情的な風景画を制作しました。しかし、画家としての成功を強く求められるプレッシャーと認められない苦悩が重なり、1878年1月に28歳で深刻な精神病を発病します。彼は偏執病性統合失調症と診断され、風景画家としての活動は終わりを告げました。

その後、ヒルはスウェーデンに帰国し、故郷の家で母と妹の介護を受けながら、亡くなるまでの28年間を過ごしました。この病気による療養期間に、彼は風景画とは異なる数千点に及ぶ幻想的なドローイングを制作しました。公的な美術界の競争から解放された彼は、病の中にあって自由に創造活動を行い、その作品群は彼自身の内面世界を色濃く反映しています。『最後の人類』も、この時期に生み出された作品の一つです。彼のドローイングのインスピレーションは、しばしば書籍や雑誌、あるいは自身の初期の作品から得られ、また強い幻聴を経験していたことも制作の原動力となったとされています。

技法と素材

『最後の人類』は、二人の裸の人物が岩の露頭に並んで立ち、その身体はマスタード色で描かれています。背景には荒々しい空と暗い海に打ち寄せる波が描かれ、ドラマチックな効果を生み出しています。ヒルが病中に制作した作品には、クレヨン、鉛筆、インク、墨、水彩など様々な技法が用いられたドローイングが多く含まれていますが、この作品もその中のひとつであり、色彩が豊かに用いられた表現が特徴です。

作品が持つ意味

『最後の人類』というタイトルが示す通り、この作品は人類の終末、孤立、そして実存的な絶望といったテーマを強く示唆しています。画面に描かれた二人の人物は、足元の岩が浸食されていく様を絶望的な表情で見つめており、人類に残されたのが自分たちだけであること、そして子孫を残して血脈を繋ぐことができないという悲壮な状況を描いていると解釈できます。ヒルの病中の作品は、しばしば幻想的または幻視的と評され、彼自身の精神的な葛藤や内面の風景が投影されていると考えられています。この作品もまた、生と死、存在の限界といった深遠な問いを投げかけています。

評価と影響

カール=フレードリック・ヒルは、生前には画家として認められることはありませんでした。彼の最初の展覧会は、1911年の死後数ヶ月後に故郷のルンドで開催されました。しかし、死後その作品は再評価が進み、現在ではスウェーデン国立美術館やイェーテボリ美術館、そして特にマルメ美術館に彼の広範なコレクションが収蔵され、高く評価されています。近年、彼の病中に制作された作品に対する関心が高まっており、彼の病は表現豊かな線描の巨匠へと彼を導いたとも評されています。

東京都美術館で開催されている「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展は、19世紀末から20世紀初頭のスウェーデン美術黄金期の絵画を本格的に紹介するものであり、ヒルの作品がこの主要な展覧会に選ばれたことは、彼の作品がスウェーデン美術史において重要な位置を占め、国際的な注目を集めていることの証と言えるでしょう。