リッカッド・バリ
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示される、リチャード・バリによる作品《騎士と乙女》のための習作について紹介します。
リチャード・バリ(Sven Richard Bergh)は、スウェーデンの画家、美術評論家、そして美術館館長を務めた人物です。彼は1897年に制作された油彩画《騎士と乙女》(原題: "The Knight and the Maiden" または "The Knight and the Young Lady")の習作として、1894年に《騎士と乙女》のための習作を手がけました。彼の両親も芸術家であり、彼らはリチャード・バリの最初の教師であったと考えられています。バリは1878年から1881年にかけて王立スウェーデン美術アカデミーで学びました。長年フランスに滞在しましたが、印象派には惹かれず、ジュール・バスティアン=ルパージュのような画家のレアリスム(自然主義)を好みました。また、彼は屋外で風景画を描く「アン・プレン・エール」という手法を否定しています。彼の作品は象徴主義的な傾向を持ち、曖昧な表現を通して鑑賞者に問いかけを促すことを意図していました。
本作品は1894年に制作された「油彩・カンヴァス」の習作です。元の作品は油彩が施されたカンヴァスをメイソナイトにマウントしたものであり、高さ59cm、幅69cmです。署名は「RB」のモノグラムで、メイソナイトの下、あるいは裏面に記されているとされています。リチャード・バリは象徴主義的レアリスムの画家として知られ、写実的な描写の中に詩的な雰囲気を融合させようと試みました。彼の筆致は意図的に施され、布地の質感や、人物の顔に灯る抑制された輝きを緻密に表現しています。これにより、作品全体に彫刻のような存在感が与えられています。
リチャード・バリの代表作《騎士と乙女》、そしてその習作は、鑑賞者にとって解釈の余地を残す象徴的な作品です。騎士と乙女の間の関係性について、バリがどのような意図を持っていたのかは明確にされていません。作品中に描かれているタンポポは、生、死、そして再生を象徴するとされています。バリは曖昧な作品を通して鑑賞者に問いかけを促す象徴主義の画家でした。本習作におけるクローズアップされた構図は、登場人物の視線や身振りを強調し、抑制された色彩(茶色、深緑、黄土色など)のパレットが、親密でありながら荘厳な雰囲気を作り出しています。この作品は、抑制された感情を呼び起こし、リチャード・バリの心理的な視点を典型的に示していると言えます。
リチャード・バリはスウェーデン美術における黄金期(1880年代から1915年頃)に活躍した芸術家の一人です。この時期、スウェーデンの若い芸術家たちはフランスでレアリスムを学びましたが、帰国後は自国のアイデンティティを示すべく、自然や日常の輝きを親密で情緒豊かな表現で描き出しました。バリの作品は、厳密な形式と詩的な雰囲気を組み合わせることを追求した画家としての彼の遺産を伝えています。彼の作品はスカンジナビア美術界に影響を与え、物語性のある作品を室内に取り入れたいと考える人々にとって洗練された装飾品としても評価されています。
本作品が展示される「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展は、スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀にかけてのスウェーデン美術黄金期の絵画を本格的に紹介する日本初の展覧会です。この展覧会は、自然と共に豊かに生きる北欧ならではの感性に迫るものであり、リチャード・バリの作品もその重要な一部として、スウェーデン美術の多様な魅力を伝える役割を担っています。