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故郷の調べ

アンデシュ・ソーン

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展覧会にて展示された、アンデシュ・ソーンの作品「故郷の調べ(Home Tunes)」についてご紹介します。

作品「故郷の調べ(Home Tunes)」について

制作背景と意図

アンデシュ・ソーン(1860-1920)は、スウェーデンを代表する国民的画家です。彼はイギリスやフランスなど国際的に活躍し成功を収めた後、1896年に故郷スウェーデンへと帰国しました。この帰国は、当時の多くのスウェーデン人芸術家に見られた傾向であり、彼らは異国での学びを母国に持ち帰り、独自の「スウェーデンらしい」新しい芸術を創造しようとしました。

作品「故郷の調べ」は、ソーンの晩年にあたる1920年に制作されました。この時期の作品には、スウェーデンの画家たちが追求した「スウェーデンらしさ」や、身近な人々の暮らし、伝統的な民俗文化へのまなざしが反映されています。近代化の波の中で失われつつあった故郷の情景や文化を捉え、その本質を表現しようとする画家の意図が込められています。

技法と素材

「故郷の調べ」は、油彩、カンヴァスという素材で描かれています。アンデシュ・ソーンは、水彩画と油彩画の双方で独自の描写技法を確立し、その卓越した技術で知られています。特に光と水の相互作用を写実的に描くことに優れており、印象派の影響を受けつつも、彼自身の力強い筆致と光と影の鮮やかな表現が特徴的なスタイルを築きました。本作品においても、油絵具の特性を活かし、故郷の調べが聞こえてくるかのような、深みと情感のある色彩表現が用いられています。

作品の持つ意味

作品名「故郷の調べ」は、故郷の文化や風景から発せられる音、あるいはそこにある懐かしい雰囲気や感情を想起させます。この作品は、海外での経験を経て帰国したソーンが、自身のルーツであるスウェーデンの日常の暮らしや伝統的な要素に深く向き合った証と言えるでしょう。近代化が進む中で失われゆくスウェーデンの伝統的な生活様式や民俗文化に光を当て、その価値を作品を通して再認識させようとする、画家の郷土への深い愛情と敬意が込められた作品です。

評価と影響

アンデシュ・ソーンは、カール・ラーションらと共に、スウェーデン絵画史において「ABC」と称されるほど大きな名声を獲得した代表的な画家の一人です。パリ万国博覧会でグランプリを受賞するなど、国際的な評価も高く、スウェーデンの国民的画家としての地位を確立しました。

「故郷の調べ」は、彼の代表作の一つとして、スウェーデン国立美術館に収蔵されています。この作品は、海外で学んだ表現技法をスウェーデン独自の風土や文化を描くために昇華させ、新たな「スウェーデン絵画」を築き上げたソーンの芸術的達成を象徴するものです。東京都美術館開館100周年記念展覧会での展示は、本作品がスウェーデン美術史において重要な位置を占め、多くの人々に影響を与え続けていることを示しています。