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家政婦のブリッタ=マリーア・バンク (愛称ムッサ)

エーヴァ・ボニエル

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示された、エーヴァ・ボニエルによる油彩画「家政婦のブリッタ=マリーア・バンク (愛称ムッサ)」は、19世紀末のスウェーデンにおける肖像画の傑作の一つです。本作品は、同時代のスウェーデンの芸術家たちが追求した「日常のかがやき」を捉えるという精神を体現しています。

作品の背景と経緯

この作品が制作された1890年当時、スウェーデンの若い芸術家たちは、1880年代頃からフランスで写実主義(レアリスム)を学び、人間や自然をありのままに表現することに傾倒していました。彼らはその後帰国し、自国のアイデンティティを示すべく、スウェーデンらしい芸術の創造を目指しました。それは、自然や身近な人々、そして日常の中に潜む輝きを、親密で情緒豊かな表現で描き出すことでした。エーヴァ・ボニエルもまた、こうした潮流の中で肖像画家として活躍しました。

エーヴァ・ボニエルは1857年、ストックホルムの著名な出版社の家に生まれました。彼女は1875年にアウグスト・マルムストロームの美術学校で、次いで1878年には王立美術アカデミーの女性部門で美術を学びました。 1883年から1889年にかけては友人ハンナ・ハーシュ(後のパウリ)と共にパリに滞在し、アカデミー・コラロッシで研鑽を積んでいます。 このパリ滞在期に写実主義の動きに加わり、多くの作品を生み出しました。 経済的に自立していたボニエルは、当時の女性としては非常に独立した生活を送っており、それが彼女の芸術活動にも影響を与えたと考えられます。

制作技法と素材

エーヴァ・ボニエルは主に肖像画と人物画を手がけ、細部にわたる写実的な描写を得意としました。 彼女の作品には油彩が用いられることが多く、「家政婦のブリッタ=マリーア・バンク (愛称ムッサ)」も油彩で描かれたものと推測されます。 ボニエルは光の扱い、特に室内での複雑な光の効果を好んで描きました。 筆致は繊細で感性豊かであり、主題の気分や質感を巧みに表現しました。

作品の意味

「家政婦のブリッタ=マリーア・バンク (愛称ムッサ)」は、当時のスウェーデンの芸術家たちが追求した「日常の美」や「身近な人々の描写」というテーマに沿っています。ボニエルは女性の肖像画において、その人物が持つ雰囲気や内面の脆弱さを捉えることに長けていました。 家政婦という、当時の社会において身近な存在であった人物を主題とすることで、個人の尊厳と真実を写実的に描き出すという彼女の芸術的意図がうかがえます。作品に込められた誠実な視線は、鑑賞者に深い共感を促します。

作品の評価と影響

エーヴァ・ボニエルは生前、パリのサロンや万国博覧会で作品を発表し、高い評価を得ました。 スウェーデン国内でも頻繁に批評の対象となり、その作品は現在、ストックホルム国立美術館に収蔵されています。 彼女の作品は、その技術と存在感において同時代の著名な画家たちに匹敵すると評価されながらも、カール・ラーションなどの他の画家によって時に影が薄れることもあったと指摘されています。 しかし、彼女が切り開いた写実主義的な肖像画のスタイル、そして身近な人物の心情を深く掘り下げた表現は、スウェーデン美術史において重要な位置を占めています。画家としての活動は1894年から1900年頃に終息しましたが、その後は遺産を元手にストックホルムの美化のための財団を設立し、慈善活動に尽力しました。