オーディオガイド トップに戻る
0:00
0:00

馬のいるフランスの田舎道

ニルス・クルーゲル

ニルス・クルーゲル作《馬のいるフランスの田舎道》:スウェーデン絵画におけるリアリズムの探求

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されるニルス・クルーゲル(1858-1930)の作品《馬のいるフランスの田舎道》は、1885年に制作された油彩画である。この作品は、19世紀末から20世紀にかけてのスウェーデン美術における重要な潮流と、画家のフランス滞在中の経験を色濃く反映している。

制作の背景と意図 ニルス・クルーゲルは、1874年にスウェーデン王立美術院で学び始めるも、病により中退した後に私立の美術学校で研鑽を積んだ。1881年にはフランスのパリに渡り、アカデミー・コラロッシでジャン=ポール・ローランスに師事した。彼は多くの北欧の芸術家が集ったグレ=シュル=ロワンでも活動し、1882年には初めてパリのサロンに出展している。

1880年代のこの時期、フランスで学んだ若いスウェーデン人芸術家たちは、人間や自然をありのままに表現するレアリスム(写実主義)に傾倒した。クルーゲルもまた、この潮流の中でフランスの戸外制作から影響を受け、印象派の技法を取り入れている。特に、馬への強い関心は彼の初期作品に頻繁に見られ、1885年にはパリの通りで働く馬を描いた作品も手掛けている。本作も、フランスの田舎道という日常の情景に馬を描くことで、当時の彼の関心と制作意図を示している。

技法と素材 本作はカンヴァスに油彩で描かれている。クルーゲルがフランス滞在中に受けた印象派からの影響は、同時期に制作された《オーランドの風景、馬に乗ったジプシー》(1885年)などにも見られ、広範な筆致を用いて一瞬の動的な印象を捉える表現が特徴とされる。これにより、戸外の光や空気感を作品に落とし込む試みがなされている。

作品が持つ意味 《馬のいるフランスの田舎道》は、フランスでの経験を通じて、クルーゲルがリアリズムと印象派の表現を習得していった時期の作品であり、スウェーデン美術が国外の動向から影響を受けて変革していった様を示すものとして位置づけられる。日常の一場面を描き出すことで、派手さはないものの、そこに潜む自然な輝きや叙情性を伝える意図が込められていると考えられる。馬という身近な存在を通して、当時のフランスの田園風景における生命感を表現している。

評価と影響 クルーゲルは1887年にスウェーデンへ帰国後、ヴァールベリに移り、リッカルド・ベリ、カール・ヌードストロームと共に「ヴァールベリ派」を結成した。この後、彼は明るい印象派的な画風から離れ、ポール・ゴーギャンやフィンセント・ファン・ゴッホの影響を受け、より明確な色彩と暗い輪郭を持つ総合主義的な「気分絵画」へと作風を変化させていく。この変化を鑑みると、《馬のいるフランスの田舎道》は、彼がフランスで吸収したリアリズムと印象派の技法を駆使した、初期の重要な成果として評価される。彼のフランス滞在期の作品は、スウェーデン美術が独自のアイデンティティを確立する上で、いかに国外の芸術動向を取り入れたかを示す好例であり、その後の彼の芸術的発展の基盤を形成した。