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カケス

ブリューノ・リリエフォッシュ

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示される、ブリューノ・リリエフォッシュの作品《カケス》について紹介する。

作品概要

ブリューノ・リリエフォッシュの《カケス》は1886年に油彩でキャンバスに描かれた作品である。縦51cm、横66cmのサイズで、現在はスウェーデン国立美術館が所蔵している。

制作背景・経緯・意図

ブリューノ・リリエフォッシュ(1860-1939)は、スウェーデンを代表する国民的画家であり、19世紀後半から20世紀初頭にかけて最も重要かつ影響力のある野生動物画家として知られている。彼はスウェーデンの自然の美しさと、野生世界の生命力豊かな姿を描くことを目指した。

1880年代頃、スウェーデンの若い芸術家たちはフランスで学び、「人間や自然をありのままに表現するレアリスム」に傾倒した。彼らは帰国後、自国のアイデンティティを示すべく、自然や身近な人々、日常に潜む輝きを親密で情緒豊かな表現で描き出す、スウェーデンらしい芸術の創造を目指した。リリエフォッシュもその潮流の中にあり、日本の美術や印象派からも影響を受け、環境や光の効果への深い関心を示している。

リリエフォッシュは生涯を通じて狩猟家でもあり、その経験から動物たちに対する深い洞察を得た。彼はキツネと野ウサギ、オオワシとケワタガモ、オオタカとクロライチョウといった捕食者と被食者の関係を題材にすることもあったが、捕食者の獰猛さや被食者の悲壮感を誇張することなく、感傷性を排除した写実的な描写を特徴とした。また、彼は生きた鳥の観察に加え、剥製や写真も制作の参考にし、それらを自然の中に配置して研究を行った。

《カケス》は、このような彼の制作姿勢をよく示している。即座の危険に直面したカケスたちの反応を捉えており、一羽はすでに飛び立ち、もう一羽は甲高い警戒の鳴き声を上げようと口を開いている瞬間が描かれている。

技法・素材

本作は油彩、キャンバスという素材が用いられている。リリエフォッシュの絵画は、しばしば「戸外制作(アン・プレン・エール)」で描かれたかのような印象を与える絵画的な質感を持ち、鳥や風景の前に直接描かれたかのような臨場感がある。

彼は、前景に枝を配し、背景の森の縁をぼかすことで、時間の一瞬を捉えたような印象を強調している。また、筆致を巧みに使い分け、動物の毛並みや木の葉の質感を見事に表現している。鳥たちをクローズアップで捉えることで、スナップ写真のような躍動感あふれる描写を生み出し、対象への慈愛に満ちた眼差しと、素早い筆致で動物たちの動的な姿を描き出す卓越した技量がうかがえる。

意味合い

《カケス》は、野生動物の生命力と、彼らが自然の中で生きる一瞬の緊張感を表現している。リリエフォッシュの作品は、感傷に流されず、自然のありのままの姿を描くことに重点を置いている点で独特である。

この作品は、19世紀末のスウェーデン美術の潮流、すなわち、自然や日常の描写を通して国民的アイデンティティを表現しようとする試みの一環として位置づけられる。カケスたちの緊迫した瞬間を捉えたクローズアップと躍動感のある描写は、彼の生き物に対する深い愛情と、その動きを描き出す卓越した技量を示すものである。彼は日本画の細密描写とフランス印象主義に影響を受けつつも、冷徹な博物学者の観察と北欧的な自然感情を基調とし、森の野鳥や水鳥の生態描写に没頭した。

評価と影響

ブリューノ・リリエフォッシュは、その時代のスウェーデンで最も重要かつ影響力のある野生動物画家として評価されている。彼の動物画は、写実性と、動物たちが自然の生息地で生き生きと存在する様子を捉える能力において高く評価されている。

彼はアンデシュ・ソーン、カール・ラーションと共に「スウェーデン画家のABC」として知られる人気画家の一人であり、スウェーデン美術を代表する存在である。彼の作品における動物の「目」や表情の描写は、鑑賞者を強く惹きつけ、野生動物と真摯に向き合ったからこそ描ける深みを持っていると評されている。彼の絵画は複製でも魅力的であり、実物を見た際の感動は計り知れないとされる。