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グレ=シュル=ロワン

カール・ノードシュトゥルム

「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展に出品されているカール・ノードシュトゥルムの油彩画《グレ=シュル=ロワン》は、スウェーデン近代絵画の形成期における重要な一場面を象徴する作品です。

作品の背景と制作意図

この作品は、カール・ノードシュトゥルムが1885年から1886年にかけてフランスのグレ=シュル=ロワンに滞在していた時期に制作されました。グレ=シュル=ロワンは、パリから南東に位置するロワン川沿いの小さな村で、19世紀後半には各国の画家が集まる芸術家村として知られていました。特に、スウェーデンをはじめとする北欧出身の芸術家が多くこの地で活動しており、ノードシュトゥルムと画家カール・ラーションがその中心的な存在でした。

当時のスウェーデンの若き画家たちは、母国アカデミーの保守的な方針に不満を抱き、フランスで新しい芸術の潮流、特に人間や自然のありのままの姿に美を見出す自然主義的な眼差しに触れました。グレ=シュル=ロワンでの制作は、彼らがフランスで学んだレアリスムや自然主義を土台としつつ、自身の感情や叙情的な雰囲気を重視する独自の表現方法を築き上げる上で大きな糧となったとされています。

ノードシュトゥルム自身も、モネやルノワールと同時期に活躍し、パリで印象派展を見て影響を受けています。その後、日本の木版画に触れたことからジャポニスムの要素を作品に取り入れ、手前に鳥の止まった枝を描き、遠景と対比させる構図などが見られるようになります。このような多様な影響を受けながらも、彼はスウェーデンの風景に独自の解釈を加え、「物寂しげで静けさが感じられる」作風を確立していきました。

技法と素材

《グレ=シュル=ロワン》は油彩でカンヴァスに描かれています。この時期のノードシュトゥルムの作品は、印象派からの影響を受けつつも、彼独自の視点を通して描かれた風景が特徴です。詳細な画像情報は確認できませんが、彼の代表的な作風からは、光の表現や、対象に対する深い感情が込められた筆致がうかがえます。

作品の持つ意味と影響

この作品は、カール・ノードシュトゥルムがキャリアの初期において、フランスの芸術家村で国際的な交流を通じて自身の画風を模索し、発展させていた時期の成果を示しています。グレ=シュル=ロワンでの経験は、ノードシュトゥルムが後に美術家同盟のリーダーとして反アカデミー運動を推進し、近代スウェーデン風景画に新たな局面を切り開く上での重要な基盤となりました。

展覧会のテーマである「北欧の光、日常のかがやき」が示すように、スウェーデン絵画は厳しくも豊かな自然や、日常への温かいまなざしを表現しています。ノードシュトゥルムの《グレ=シュル=ロワン》は、スウェーデン人画家たちがフランスでの学びを経て、いかにして「スウェーデンらしさ」というアイデンティティを絵画に見出していったか、その道のりを示す一例として評価されます。この作品は、スウェーデンの画家たちが外光派の影響を受けつつも、北欧独自の自然感情や精神性を作品に昇華させていく過程を理解する上で重要な意味を持っています。