アクセル・ユングステット
東京都美術館開館100周年を記念し開催される「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて、スウェーデンを代表する画家アクセル・ユングステットの作品《スイスの石切り場》が展示されています。この作品は、19世紀末のスウェーデン美術の黄金期をたどる本展において、自然と人間、そして日常の輝きというテーマを象徴する重要な一点です。
アクセル・ユングステット(1859-1933)は、スウェーデンの画家であり、王立スウェーデン美術アカデミーの教授を務めました。彼は1878年から1883年にかけて王立スウェーデン美術アカデミーで学び、卒業後、1884年から1888年にかけてイタリア、ドイツ、スイスへの研修旅行を行いました。パリではウィリアム=アドルフ・ブグローに師事しています。
本作品《スイスの石切り場》は、ユングステットがスイスを夏に訪れた1886年に制作されました。この時期、彼はスイスで写生旅行を行っており、作品には19世紀後半のスイスにおける石切り場の様子が描かれています。荒々しい自然の風景と、そこで働く人々の勤勉さが捉えられており、当時の画家たちが写実的な描写を通して、生活や労働の情景を捉えようとした姿勢がうかがえます。
この作品は、油彩、カンヴァス(油絵具とキャンバス)という古典的な技法と素材を用いて制作されています。絵画の寸法は、およそ縦115.2cm、横137.2cmであり、1886年に制作され、同年中に国立美術館に収蔵されました。ユングステットは、奥行きのある空間表現と、光の描写に長けており、石切り場の厳かな雰囲気と、働く人々の存在感を巧みに表現しています。
《スイスの石切り場》は、雄大な自然の美しさと、人間の営みが織りなす情景を描き出すことで、見る者に穏やかさと畏敬の念を抱かせます。石切り場という労働の場を主題としながらも、ユングステットはそこで展開される「日常のかがやき」や、厳しい環境の中での「北欧の光」を見出し、作品に落とし込んでいます。本展のテーマである「自然」「光」「日常のかがやき」というキーワードは、ユングステットを含む19世紀末のスウェーデン絵画が共通して持つ感性を表しており、この作品もその精神を色濃く反映していると言えるでしょう。
アクセル・ユングステットは、1880年代から1890年代にかけて、当時の芸術界の潮流の中で中庸な立場を取り、特定の芸術運動に深く傾倒することなく独自の表現を追求しました。彼の作品は、ヨーテボリ美術館、デンマーク国立美術館、ノルウェー国立美術館に所蔵されており、ストックホルム歌劇場の装飾も手がけるなど、その実力は広く認められています。
《スイスの石切り場》は、1886年にスウェーデン国立美術館によって購入され、同館の重要なコレクションの一つとなっています。今回の東京都美術館での展示は、日本においてスウェーデン美術の黄金期を紹介する初の本格的な機会であり、この作品を通じて、アクセル・ユングステットの芸術性、そして当時のスウェーデン絵画が持つ豊かな表現が改めて評価され、多くの人々に新たな視点を提供しています。