リッカッド・バリ
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示されるリッカッド・バリの油彩画「コンカルノーの少年」について紹介します。
リッカッド・バリ(Richard Bergh、1858-1919)は、スウェーデンを代表する画家、美術批評家、美術館館長であり、その初期の傑作の一つが1882年に制作された油彩画「コンカルノーの少年」です。この作品は、ストックホルムのスウェーデン国立美術館に所蔵されています。
19世紀後半、多くのスウェーデン人芸術家がフランスに渡り、当時の新しい美術動向を学びました。リッカッド・バリもその一人で、1881年から1884年までパリで学びました。しかし、彼は印象派には惹かれず、ジュール・バスティアン=ルパージュのような画家の自然主義的なアプローチを好みました。
本作が描かれたフランスのブルターニュ地方の漁港コンカルノーは、当時、多くの北欧の芸術家にとって人気の滞在地でした。バリは、この地で出会った一人の少年をモデルに選びました。当時の風俗画では貧しい子どもたちを理想化して描くことが一般的でしたが、バリはそうした慣習に倣わず、少年を彼の実際の環境の中に、ありのままに描くことを選びました。これは、19世紀のヨーロッパにおいて、特に都市部で労働者階級の子どもたちの労働が一般的であったという社会状況を背景に、理想化を避けた写実的な描写を追求したバリの自然主義的な姿勢を示すものです。
「コンカルノーの少年」は、油彩でカンヴァスに描かれています。バリは油絵具を巧みに用い、少年の表情や身体の細部、そして彼を取り巻く環境の描写に写実的な表現を追求しました。作品の重心は少年の視線と、脊柱側弯症を患っている彼の身体に置かれています。この身体的特徴も、理想化することなく現実を直視するバリの視点によって描かれています。
この作品は、貧しい子どもたちの理想化された描写が主流であった時代において、現実の人間とその環境をありのままに捉えようとするバリの意図を強く示しています。少年のまなざし、そして脊柱側弯症によって特徴づけられた彼の身体は、作品の主題として強調されており、鑑賞者に対して、彼の内面や厳しい現実を深く感じさせる力を持っています。スウェーデン語の別タイトル「Den lille krymplingen(小さなせむし)」も、少年の身体的特徴と、それに対する画家の眼差しを明確に示唆しています。バリは、社会の片隅に生きる人々の現実を描写することで、人間の尊厳と存在の意味を問いかけたと言えるでしょう。
リッカッド・バリは後に「スタムニングスモーレリ(気分絵画)」という概念を提唱し、世紀末に向けて主観的な絵画様式への移行を擁護しますが、「コンカルノーの少年」が制作された1882年は、彼がまだ自然主義的な探求の途上にあった時期の作品です。この作品は、フランスで学んだレアリスムや自然主義を基盤としつつ、やがてスウェーデン独自の芸術表現を模索していくスウェーデンの画家たちの動きの中に位置づけられます。自然や身近な人々、そして日常の中に潜む輝きを親密かつ情緒豊かな表現で描き出すという、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン美術の黄金期における重要な一歩を示す作品の一つと言えるでしょう。
本展「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」は、スウェーデン国外でも注目を集めるスウェーデン絵画の本格的な紹介であり、リッカッド・バリの「コンカルノーの少年」を含む、この時代の魅力的な作品群を通して、自然と共に豊かに生きる北欧ならではの感性に触れる貴重な機会となります。