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画家ルイーズ・ブレスラウ

アーンシュト・ヨーセフソン

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展覧会に展示されるアーンシュト・ヨーセフソン作《画家ルイーズ・ブレスラウ》は、スウェーデン近代絵画史における重要な肖像画の一つです。この作品は、画家ヨーセフソンがパリで活動していた時期に、同時代の著名な女性画家であるルイーズ・ブレスラウを描いたものであり、その制作背景、技法、そして作品が持つ意味合いにおいて、深い洞察を促します。

作品の背景と制作意図

本作の作者であるアーンシュト・ヨーセフソン(1851-1906)は、スウェーデン王立美術アカデミーで学び、その後、自らをスウェーデンのレンブラントたらしめようと、フランスやオランダへ渡り研鑽を積んだ画家です。1880年代のパリでは、スウェーデンから多くの若手芸術家が、時代遅れとされたスウェーデン王立美術アカデミーの教育法に不満を抱き、新たな表現や価値観を求めて集っていました。彼らは、人間のありのままの姿や自然を見つめるレアリスムや自然主義、そして印象派などのフランス近代絵画の潮流から大きな影響を受けました。

ヨーセフソンもこの動きの中で、パリを拠点に活動していました。本作のモデルであるルイーズ・ブレスラウ(1856-1927)は、ドイツ生まれのスイス人画家で、パリの私立美術学校アカデミー・ジュリアンで学び、エドガー・ドガをはじめとする当時の著名な芸術家たちの間で高く評価された肖像画家として活躍していました。彼女は年間サロンで作品を発表し、メダルを獲得するほどの成功を収めていました。

ヨーセフソンがブレスラウの肖像を描いたのは1886年のことです。この時期、ヨーセフソンの芸術はレアリスムから象徴主義、表現主義へと進化を遂げ、感情的な深みを帯びていく過渡期にありました。同業者であり、パリの芸術界で成功を収めていたブレスラウを描くことで、ヨーセフソンは単なる肖像を超え、芸術家の内面や、当時のパリの芸術的な活気を捉えようとしたと考えられます。

技法と素材

《画家ルイーズ・ブレスラウ》は、油彩で描かれた作品であり、支持体には板が用いられています。作品のサイズは縦54.5cm、横44.5cmです。スタイルとしては印象主義的な要素が見られるとされています。油彩は、その豊かな色彩と筆致の多様性により、モデルの個性や周囲の雰囲気を表現するのに適した技法です。板を支持体に選んだことは、カンヴァスに比べてより滑らかな表面で、細部の描写や色彩の鮮やかさを際立たせる効果をもたらします。

作品が持つ意味

この肖像画は、単にルイーズ・ブレスラウという人物の外見を描写するだけでなく、彼女が持つ芸術家としての本質、知性、そして当時のパリの芸術界における彼女の存在感を象徴しています。ブレスラウは、多くの富裕なパリ市民からの依頼を受けるほど人気の肖像画家であり、サロン・ド・ラ・ソシエテ・ナショナル・デ・ボザールで審査員も務めるなど、その実力は広く認められていました。ヨーセフソンは、同業者であるブレスラウの肖像を描くことで、彼女の芸術家としての自立性や内面的な強さ、そして創造的な精神を表現しようとしたのではないでしょうか。この作品は、19世紀後半の女性芸術家の地位向上と、芸術家同士の交流の中で生まれた貴重な記録とも言えます。

評価と影響

《画家ルイーズ・ブレスラウ》は、現在ストックホルムのスウェーデン国立美術館に所蔵されており、その収蔵品の一部として1919年に寄贈されました。これは、本作がスウェーデン美術史において重要な作品として認識されていることの証です。また、東京都美術館開館100周年記念の特別展に選ばれたことからも、国際的な評価と注目を集めていることが伺えます。

ヨーセフソンは、その革新的な画風と、のちに「病の芸術」と呼ばれるような内面的な葛藤を表現した作品群を通じて、スウェーデン近代美術に大きな影響を与えました。彼が残した作品は、スウェーデンのナショナル・ロマンティシズムの形成にも寄与し、後の世代の芸術家たちにインスピレーションを与え続けています。このブレスラウの肖像画もまた、ヨーセフソンの多様な表現の一端を示すものであり、両芸術家の交流と、当時の国際的な芸術環境を理解する上で貴重な資料となっています。