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少年と手押し車

アーンシュト・ヨーセフソン

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展で展示されるアーンシュト・ヨーセフソンの作品「少年と手押し車」を紹介します。

アーンシュト・ヨーセフソンと「少年と手押し車」の背景

アーンシュト・ヨーセフソン(Ernst Josephson, 1851-1906)は、スウェーデンを代表する画家であり詩人です。彼はストックホルムで生まれ、16歳でスウェーデン王立美術院に入学し、後にパリの美術学校でジャン=レオン・ジェロームに学びました。若くして「私はスウェーデンのレンブラントになるか、さもなければ死ぬ」と語ったと伝えられるほど、強い芸術的野心を持っていました。

彼の初期の作品は、アカデミックな伝統に反発し、写実的な表現にロマン主義や象徴主義の要素を融合させたもので、魅力的な肖像画や民俗生活を描いたジャンル画を多く手掛けました。 「少年と手押し車」は1880年に制作された油彩、板の作品です。この時期のヨーセフソンは、後に彼の芸術人生を決定づける精神疾患を発症する前の、写実主義から象徴主義への移行期にありました。本作は、日常の情景を温かく捉えた、彼の初期の特色を示す作品の一つとして位置づけられます。

制作技法と素材

この作品は、油彩技法を用いて板に描かれています。板を支持体として用いることで、堅固で安定した画面が確保され、細部の描写にも適していました。画面には、印象派を思わせる筆致が見られ、庭の生き生きとした様子と少年の若々しさが表現されています。

作品が持つ意味

「少年と手押し車」には、麦わら帽子をかぶり、縞模様の園芸服をまとった少年が、豊かな花々が咲き誇る庭で手押し車を押す姿が描かれています。この絵は、夏の無邪気な精神と、喜びや自由の感情を呼び起こすと評されています。 庭という空間は、成長、労働、そして自然との共生を象徴し、手押し車を押す少年は、幼いながらも日常の役割を果たす姿、あるいは人生の道を歩み始める姿と解釈することができます。ヨーセフソンが初期に描いた民俗生活の場面の一つとして、当時の人々の暮らしや子供たちの姿に対する観察と共感が込められていると考えられます。

評価と影響

アーンシュト・ヨーセフソンは、生前にはその革新性が完全に評価されたわけではありませんでしたが、彼の芸術は後世に大きな影響を与えました。特に、彼の初期の作品に見られる写実主義は、対象の個性を深く捉えることに重点を置いており、ウィリアム・バトラー・イェイツも彼の初期の肖像画を高く評価しました。 「少年と手押し車」のような日常を描いた作品は、彼の作品全体を理解する上で重要な位置を占めています。後に精神疾患を患い、より内省的で幻視的な、プロト・ポスト印象主義や表現主義へと繋がる作風へと移行しますが、本作はその前段階における、現実世界への細やかな眼差しを示す作品と言えます。彼の作品は、20世紀の芸術運動を予見し、スウェーデン美術史において独自の地位を確立しました。