ヒューゴ・サルムソン
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展に展示される、ヒューゴ・サルムソン作「落穂拾いの少女」についてご紹介します。
ヒューゴ・サルムソンと彼の芸術性 ヒューゴ・フレードリック・サルムソンは、1843年にスウェーデンのストックホルムに生まれ、1894年にルンドで亡くなったスウェーデンを代表する画家です。当初は商業を学んでいましたが、後に芸術の道へと進み、1862年にはスウェーデン王立美術院で学びました。1867年には歴史画でロイヤル・メダルと留学奨学金を獲得し、翌1868年にはデュッセルドルフを経てパリへと渡ります。パリではピエール=シャルル・コントに師事し、1870年にはサロン・ド・パリでデビューを果たしました。 サルムソンは、人物画や風俗画を得意とし、その作品には19世紀後半のフランスにおける写実主義や自然主義の影響が色濃く見られます。彼は1880年代初頭までパリにスタジオを構え、フランス北部ピカルディ地方を頻繁に訪れました。スウェーデン美術界において、サルムソンは1870年代から1880年代にかけての近代フランス絵画のプログラムと発展した技法をスウェーデンに紹介した最初の画家の一人として重要な位置を占めています。
作品「落穂拾いの少女」の背景と意図 本作品「落穂拾いの少女」は、1880年代初頭に制作されました。西洋美術において「落穂拾い」は、収穫後の畑に残された穀物を拾い集める貧しい人々を描く主題として、19世紀のリアリズム絵画においてしばしば取り上げられました。ジャン=フランソワ・ミレーの同名作品が有名であるように、このテーマは、厳しい労働や農民の生活、社会の片隅で生きる人々の静かな尊厳を表現するものです。サルムソンがパリで活動し、ピカルディ地方を訪れていた時期に制作されたことから、当時のフランス美術の潮流であった、日常の風景や人々の営みを写実的に捉える風俗画の一環として描かれたと考えられます。作品に描かれているのは、農村の風景の中で穀物を集める若いスウェーデン人少女の姿です。
技法と素材 本作は油彩でカンヴァスに描かれています。サルムソンは、当時のフランスで培われた「最も発展した技術」をスウェーデンにもたらしたと評価されており、写実的な表現と繊細な光の捉え方が特徴です。油彩の技法を駆使し、少女の衣服の質感や麦畑の様子、そして北欧特有の柔らかな光を描き出していると推察されます。
作品が持つ意味 「落穂拾いの少女」は、単なる農村の情景描写に留まらず、慎ましくも懸命に生きる人々の姿を通して、当時の社会状況や人間の尊厳について問いかける意味を持っています。少女の姿は瞑想的あるいは物思いにふけるような印象を与え、その労働の中にひそむ内省的な感情を表現しているようにも見えます。背景に広がる広大な風景の中で、一人静かに作業に没頭する少女の姿は、孤高の美しさや、自然との一体感を象徴しているとも解釈できるでしょう。
評価と影響 ヒューゴ・サルムソンは、近代フランス絵画の技法や主題をスウェーデンに紹介した先駆者の一人として、スウェーデン美術史において高く評価されています。彼の作品は、ストックホルム国立美術館、オルセー美術館、マルメ美術館など、国内外の主要な美術館に所蔵されており、その芸術的価値は広く認められています。本作品「落穂拾いの少女」もまた、彼の代表的なジャンル作品の一つとして、19世紀後半の北欧における写実主義絵画の展開を示す重要な作品として位置づけられています。