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モンティニー=シュル=ロワンの階段

カール=フレードリック・ヒル

カール=フレードリック・ヒル作 《モンティニー=シュル=ロワンの階段》

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されるカール=フレードリック・ヒルによる油彩画《モンティニー=シュル=ロワンの階段》は、1876年に制作されました。

この作品は、スウェーデン出身の画家カール=フレードリック・ヒル(1849-1911)が、画家の道を志しフランスへと渡った初期の風景画時代に描かれたものです。ヒルは数学教授の父の意に反して芸術の道に進み、1874年にフランスへ移り住みました。そこでバルビゾン派やカミーユ・コローといった先行する画家たちから影響を受け、独自の芸術を探求しました。彼の芸術哲学は「芸術に真実以外の目的はない」というものであり、単なる写実主義ではなく、「真の心」を追求することにありました。この作品も、彼がフランス各地、特にフォンテーヌブローの森に近いモンティニー=シュル=ロワンの地で、主題を探し求めていた時期に描かれました。

技法と素材に関しては、本作は油彩、カンヴァスで描かれています。寸法は縦65cm、横77cmです。 ヒルは1876年頃から印象派の影響を受け、それまでの暗い色調から離れ、より自由な筆致を用いるようになりました。パレットナイフによる厚塗りの技法も見られ、感情表現と視覚的な忠実さのバランスが取れた、雰囲気のある風景画が特徴です。 日本の文献では、彼の風景画は「柔らかい筆致で写実的で、みずみずしい情感をたたえた表現主義に近い」と評されています。

作品に描かれているのは、モンティニー=シュル=ロワンの地における、鬱蒼とした木々に覆われた丘の急な階段です。 画面には静寂な小道と、その先に続く古い石段が描かれ、柔らかな光が差し込む空の下、豊かな緑が両側を彩っています。作品によっては、静かな思索の感情を添えるかのように、一人立つ人物が描かれていることもあります。 「急な上り坂」という作品の題名自体が、困難や決意、旅路といった意味合いを示唆しているとも解釈できます。

生前のヒルは、パリのサロンに作品を出品するも落選を経験し、公式な成功を収めることはありませんでした。 しかし、彼の作品は没後に再評価され、スウェーデンのコレクターであるロルフ・デ・マーレによって1920年代から1930年代にかけてフランスのアバンギャルドに紹介されたことで、広く認知されるようになりました。 1949年には彼の生誕100周年を記念した巡回展が開催され、国際的な評価を確立しました。 今日、カール=フレードリック・ヒルの芸術は、芸術的忍耐と革新の象徴として世界中で称賛されています。 特に、彼が精神疾患を患った後に制作した数千点の素描は、シュルレアリスム、表現主義、さらにはポップアートの先駆と見なされ、ゲオルク・バゼリッツをはじめとする現代の多くの著名な芸術家にも影響を与えています。 この《モンティニー=シュル=ロワンの階段》は、その生涯における風景画家としての初期の重要な成果の一つとして位置づけられています。