グスタヴ=ヴィルヘルム・パルム
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」にて展示される、グスタヴ=ヴィルヘルム・パルムの作品《ナルニからの眺め (習作)》についてご紹介します。
本作《ナルニからの眺め (習作)》は、スウェーデンの風景画家グスタヴ=ヴィルヘルム・パルム(1810-1890)によって1845年に制作されました。パルムは1828年からスウェーデン王立美術院で学び、1841年にはローマに到着して約10年間滞在しました。この時期のローマは、北欧の多くの芸術家にとって重要な留学先であり、パルムもこの地で主要な画家の一人として活動しました。
イタリア中部のウンブリア州にあるナルニは、古くからその美しい自然や歴史的な建造物(特に古代ローマ時代の橋の遺跡など)が多くの芸術家を魅了し、絵画の題材として頻繁に選ばれてきました。フランスの画家ジャン=バティスト・カミーユ・コローもナルニを描いたことで知られています。パルムもまた、イタリア滞在中にナルニの風景に着目し、この作品を描きました。作品名に「習作」とあるように、これは戸外で直接的な観察に基づき、その場の情景や光の印象を迅速に捉えることを意図して描かれたと考えられます。
本作品は、油彩で紙に描かれています。 紙に油彩で描かれた習作は、キャンバスに描かれる完成作とは異なり、画家の思考や筆致の痕跡をより直接的に伝える性質を持ちます。
パルムは風景画を得意とし、伝統的な様式で作品を制作しました。 《ナルニからの眺め (習作)》では、習作特有の素早い筆さばきと、構図における形態の単純化が見られます。特に木々の枝葉などの描写には、印象派を想起させるような荒いタッチが用いられており、自然の印象を瞬時に捉えようとする画家の意図がうかがえます。 彼は19世紀スウェーデンを代表する新古典主義・ロマン主義の風景画家と評されており、アカデミックな構成と戸外制作による自発性を組み合わせた手法で知られています。
この作品は、19世紀のヨーロッパにおける「イタリア的な風景」への憧憬を反映しています。 多くの北欧の画家たちが、厳しくも雄大な自国の自然とは異なる、明るい陽光に満ちたイタリアの豊かな自然や歴史遺産を求めて南下しました。 パルムの《ナルニからの眺め (習作)》は、彼がイタリアで得た経験と、その地で育んだ風景画の伝統を伝えるものです。
「習作」としての性質は、画家の制作過程における探求の側面を強調します。特定の風景から何を切り取り、どのように表現するかという試行錯誤がこの作品には凝縮されています。それは単なる風景の記録に留まらず、画家の眼差しを通して捉えられたナルニの、ある一瞬の空気感や光を伝えるものと言えます。
グスタヴ=ヴィルヘルム・パルムは、スウェーデン王立美術院で教授を務め、後の世代の著名な画家、例えばカール・ラーションらを指導しました。 彼のアカデミックな構成と戸外制作の自発性を融合させた画法は、スウェーデンの美術教育に永続的な影響を与えました。 しかし、若い世代の芸術家たちからは伝統的なスタイルに固執する画家と見なされ、「古株のパルマ(Palma Vecchio)」というあだ名で呼ばれることもありました。
本作が展示される「東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展は、スウェーデン美術の「黄金期」とされる19世紀末から20世紀初頭の作品を中心に紹介します。パルムの1845年の作品は、この展覧会において、「スウェーデン近代絵画の夜明け」、あるいはスウェーデン画家がヨーロッパの伝統的様式から影響を受けていた初期の段階を示す重要な一点として位置づけられるでしょう。彼のイタリアでの経験と、その地で制作された風景画は、後にスウェーデン独自の芸術的アイデンティティが形成されていく上での重要な基盤の一つであったと考えられます。 《ナルニからの眺め (習作)》は、美術史におけるパルムの技術的卓越性と、当時のイタリアや北欧の風景を伝える視覚的記録としても評価されています。