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レットヴィックの夏至祭の踊り

キーリアン・ソル

東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されるキーリアン・ソルによる作品《レットヴィックの夏至祭の踊り》をご紹介します。

作品概要

スウェーデンの画家キーリアン・ソルが1852年に制作した油彩画《レットヴィックの夏至祭の踊り》は、スウェーデンの伝統的な夏の祝祭である夏至祭の賑やかな情景を描いたジャンル画です。この作品は、ストックホルムのスウェーデン国立美術館に所蔵されており、今回の東京都美術館での展覧会では、スウェーデン美術の「北欧の光、日常のかがやき」というテーマにおいて重要な位置を占めています。

制作背景と意図

キーリアン・ソル(1818-1860)は、スウェーデン出身の画家、版画家、イラストレーターであり、ドイツのデュッセルドルフ派の影響を受けたことで知られています。彼は当初、歴史画に重点を置いていましたが、やがて民衆の生活を描くジャンル画へと表現の中心を移しました。この転換は、1836年から1849年までストックホルムのスウェーデン王立美術院で学んだ後、1845年から1846年にかけてコペンハーゲンのデンマーク王立美術院でクリストファー・ヴィルヘルム・エッカースベアやニールス・ラウリツ・ホイエンの教えに触れたことがきっかけとなりました。

ソルは、スウェーデン国内のスカニア、ハッランド、スモーランド、ダーラナ地方などを精力的に旅し、スケッチを通じて各地の風俗や伝統的な生活を丹念に記録しました。これらの旅から得たインスピレーションが、《レットヴィックの夏至祭の踊り》のような作品の源泉となっています。彼の制作意図は、変わりゆく時代の中でスウェーデン固有の文化や共同体の精神、そして人々の日常に根ざした喜びを、ありのままに捉え、後世に伝えることにあったと考えられます。作品が制作された1852年頃は、彼がデュッセルドルフに滞在していた時期と重なりますが、描かれたのは故郷スウェーデンの情景です。

技法と素材

本作は油彩でカンヴァスに描かれています。キーリアン・ソルが属したデュッセルドルフ派は、写実的な描写と細部へのこだわりを特徴としており、《レットヴィックの夏至祭の踊り》もその影響を色濃く受けていると推測されます。色彩は鮮やかでありながらも、北欧の光が織りなす独特の透明感と温かみが感じられるでしょう。

作品の持つ意味

《レットヴィックの夏至祭の踊り》は、スウェーデンのダーラナ地方、特に夏至祭の伝統が色濃く残るレットヴィックでの祝祭の様子を描いています。夏至祭は、北欧の短い夏を祝い、豊穣を願う数千年の歴史を持つ伝統的な祭りで、一年で最も日が長く明るい時期に行われます。人々は花や葉で飾られたメイポール(夏至柱)の周りで伝統的な踊りを踊り、民族衣装を身につけて集います。

この作品は、単なる祭りの風景を描写するだけでなく、スウェーデン国民のアイデンティティ、自然との共生、そして共同体の絆の象徴としての夏至祭の意味を深く伝えています。陽光の下で踊る人々やその表情からは、北欧の自然がもたらす生命力と、人々が分かち合う幸福感がにじみ出ています。

評価と影響

キーリアン・ソルの作品は、彼が生きた時代においてスウェーデン各地の展覧会で紹介され、評価されていました。特に《レットヴィックの夏至祭の踊り》のような民衆の生活を描いた作品は、その後のスウェーデン美術における国民的ロマン主義の潮流に先駆けるものとして、重要な意味を持っています。

東京都美術館での本展は、スウェーデン国立美術館の全面協力のもと、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスウェーデン美術の「黄金期」を本格的に紹介するものであり、ソルの作品は、そのルーツを辿る上で不可欠な一点として位置づけられています。この作品は、スウェーデン人画家たちがフランスのレアリスムや自然主義から学びつつも、最終的には自国の自然や日常、そして感情的な表現へと回帰し、独自の芸術を創造していった道のりを示す象徴的な作品の一つとして、今日の鑑賞者にも多大な影響と感動を与え続けています。