イエーオリ・フォン・ローセン
東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」展にて展示されるイエーオリ・フォン・ローセンの《大ステーン・ステューレのストックホルム入城》は、スウェーデン史における重要な瞬間を描いた歴史画である。
本作は1864年に制作された油彩画であり、15世紀のスウェーデンの摂政、大ステーン・ステューレがストックホルムに入城する場面を描いている。この歴史的出来事は、1471年のブルンケベリの戦いで、デンマーク軍を破った後のことであり、スウェーデンがデンマークからの独立を勝ち取った象徴的な勝利であった。フォン・ローセンは、19世紀半ばのスウェーデンにおいて高まっていたナショナルロマンティシズムの潮流の中で、この国家的英雄の偉業を記念し、愛国心を鼓舞する目的でこの作品を制作したと考えられている。彼は古い画法を研究し、まるで15世紀の画家が描いたかのような雰囲気で歴史的場面を表現しようと試みた。これは、歴史の信憑性を高めるとともに、過去の栄光を現代に蘇らせることを意図したものである。
使用されている素材は油彩とカンヴァスである。フォン・ローセンは、歴史画の表現に適した重厚感と奥行きを出すために、油彩画の伝統的な技法を深く研究した。特に「古い画法」への言及は、彼がルネサンス期やバロック期の巨匠たちの色彩、構図、光の表現などを分析し、それらを自身の作品に取り入れたことを示唆している。これにより、彼は単なる歴史の再現ではなく、時代を超越した物語性を作品に与えようとした。
この作品は、スウェーデンの国民的アイデンティティと独立の精神を強く象徴している。大ステーン・ステューレは、デンマーク支配からの解放者として、スウェーデン史における英雄として記憶されている。彼のストックホルム入城は、単なる軍事的勝利ではなく、スウェーデン国民が自らの運命を決定する力を取り戻した瞬間として描かれている。フォン・ローセンがこのテーマを選んだことは、19世紀のスウェーデンにおいて、歴史的英雄を通じて国民意識を高めようとする当時の風潮を反映している。作品全体から漂う荘厳さと凱旋の雰囲気は、スウェーデンの強さと独立への願いを視覚的に表現している。
イエーオリ・フォン・ローセンはスウェーデン近代絵画を代表する画家の一人であり、特に歴史画の分野で重要な役割を果たした。彼の作品、とりわけ《大ステーン・ステューレのストックホルム入城》のような歴史的テーマを扱ったものは、当時のスウェーデン社会において、国家の歴史と文化への関心を喚起し、国民的誇りを育む上で大きな影響を与えた。この絵画は、その後のスウェーデンにおける歴史画の展開にも影響を与え、他の画家たちが同様のテーマに取り組むきっかけとなった可能性がある。現在もスウェーデン国立美術館に収蔵されており、スウェーデン美術史における重要な作品として高く評価されている。