クロード・モネ Claude Monet
オルセー美術館所蔵「印象派―室内をめぐる物語」にて展示されるクロード・モネの作品「睡蓮(壁掛け)」は、画家モネの連作「睡蓮」の新たな一面を示す貴重な作品です。
制作の背景・経緯・意図 クロード・モネは、1883年にフランスのジヴェルニーに移り住み、自ら造成した「水の庭」の睡蓮を主題に、1890年代から晩年まで約30年間にわたり250点以上もの「睡蓮」連作を描き続けました。これは、彼の生涯における創作活動の約7分の1を占める、極めて重要なテーマでした。モネは、時間や季節、天候によって移ろいゆく光と水面の変化を捉えようとし、その「水の庭」に没頭しました。 今回紹介する「睡蓮(壁掛け)」は、1913年に制作された毛織物作品であり、モネの原画に基づいてサヴォヌリー製作所が手掛けたものです。 展覧会「印象派―室内をめぐる物語」のテーマにもあるように、印象派の画家たちは戸外の風景だけでなく、室内の装飾画やオブジェも手がけており、モネもまた、巨大な絵画パネルによって観る者を囲み、室内にいながら自然への没入を可能にするような作品を構想していました。 この毛織物による壁掛けも、このような室内装飾の文脈の中で制作されたものと考えられます。
技法と素材 モネの「睡蓮」連作の多くは油彩画であり、キャンバスに油絵具を用いて描かれています。 しかし、この「睡蓮(壁掛け)」は1913年に毛織物で制作されており、モネの絵画を元に、フランスの著名なタペストリー工房であるサヴォヌリー製作所が織り上げたものである点が特徴です。 モネは、パレットで絵具を混ぜずに異なる色をキャンバスに並置させる「筆触分割」という技法を用い、鮮明な光と色彩を表現しました。 この毛織物の壁掛けも、織りの技術によってモネが追求した光の表現や色彩のニュアンスを再現しようと試みられています。
作品の意味 「睡蓮」連作は、モネが自身の庭に作り上げた「水の庭」をモチーフとしています。 彼は、水面に浮かぶ睡蓮の花や葉だけでなく、空や雲、岸辺の木々が水面に映り込む様子をも描き出し、移ろいゆく自然の一瞬の「印象」を捉えようとしました。 仏教においては、睡蓮は「仏の悟り」を意味するシンボルでもあり、モネは生命の源である「水」と、水面に反射する「風景」という豊かな自然の調和を描き続けたとされています。 また、作品全体が水面で覆われた構図は、見る者をあたかも池の中に立っているかのような感覚にさせ、無限の空間を表現する意図がありました。 日本の浮世絵から着想を得た大胆な構図や視点の工夫も、モネの作品に影響を与えています。
評価と影響 モネの「睡蓮」連作は、彼の後半生を象徴するライフワークであり、印象派を代表する傑作として高く評価されています。 彼の作品は、光と色の繊細な描写、そして自然の移ろいゆく美しさを表現することで、見る者の心を魅了し続けています。 また、晩年の「睡蓮」に見られる、細部を大胆に省略した抽象的な表現は、後の表現主義や抽象絵画、さらには抽象表現主義やアンフォルメルといった20世紀の美術運動にも影響を与えたと指摘されています。 この毛織物の壁掛けは、絵画作品とは異なる素材と技法によってモネのビジョンを具現化したものであり、彼の芸術が多様な形で展開されたことを示唆する貴重な事例と言えるでしょう。