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睡蓮 Water Lilies, Wall Panel

クロード・モネ Claude Monet

クロード・モネ 《睡蓮》(毛織物)1913年:オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

クロード・モネの《睡蓮》は、印象派を代表する連作として世界中で知られていますが、本記事でご紹介する「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展に展示された《睡蓮》は、1913年に制作された毛織物の壁画(タペストリー)であり、画家自身の油彩作品とは異なる、室内装飾としての側面を持つ点で特筆すべき作品です。

制作の背景と経緯

クロード・モネ(1840-1926)は、フランス印象派の創始者の一人であり、その芸術活動の後半生、特に1890年代後半から亡くなる1926年までの約30年間は、ジヴェルニーの自宅に造園した睡蓮の池を主題とした連作「睡蓮」に没頭しました。この連作は、光や大気の変化、水面に映る反射の捉え方を追求し、約250点もの油彩画が制作されました。

モネは晩年、観る者を包み込むような大規模な装飾絵画としての「睡蓮」構想を抱いていました。これは「グラン・デコラシオン(大装飾)」と呼ばれ、最終的にパリのオランジュリー美術館に設置された8枚の巨大な壁画として結実します。

本作品は、モネの油彩原画に基づき、フランスの国立ゴブラン・サヴォヌリー製作所(Manufacture de la Savonnerie)によって1913年に織られた毛織物の作品です。 「睡蓮」の絵画が3点のタペストリーとして織られたことが確認されており、これはモネの連作が持つ装飾的な性質を強く示しています。 この毛織物の《睡蓮》が制作された1913年という時期は、モネが白内障を患いながらも「睡蓮」の連作に情熱を傾けていた時期と重なります。

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」展は、「室内」というテーマに焦点を当て、印象派の画家たちが戸外の風景だけでなく、室内空間においていかに光や雰囲気を捉え、表現に挑戦したかを探るものです。 この毛織物の《睡蓮》は、絵画が壁面装飾として室内を彩るという文脈において、展覧会のテーマに深く合致する作品と言えるでしょう。

技法と素材

この《睡蓮》は「毛織物(Wool)」で制作された壁画(Wall Panel)です。 これは、画家自身が絵筆と油絵具でキャンバスに描く通常の油彩画とは異なり、織物職人によってモネの絵画がタペストリーとして再現されたことを意味します。タペストリーは、織りによって絵柄を表現する伝統的な技法であり、緻密な色彩の再現と豊かなテクスチャーが特徴です。

モネの油彩作品における技法としては、瞬間的な光の印象を捉えるために素早い筆致(タッシュ)が用いられ、絵具を混ぜ合わせずに直接キャンバスに置くことで、鮮やかな色彩と光のきらめきが表現されました。 彼の「睡蓮」連作では、地平線が排除され、水面のみに焦点が当てられることで、観る者は水中に没入するような感覚を覚えます。 このような油彩画の視覚的効果が、毛織物という異なる素材と技法でどのように翻訳されているかが見どころとなります。

意味と評価

モネの「睡蓮」連作は、単なる自然の描写を超え、光、色彩、反射といった移ろいゆく現象そのものを主題としました。 水面に映る空や雲、そして睡蓮が織りなす無限の広がりは、具象と抽象の境界を行き来するような表現を生み出しました。 特に晩年の作品では、視力の衰えとも相まって、形態は曖昧になり、色彩と筆致がより強調され、抽象絵画への道を開いたと評価されています。

毛織物による《睡蓮》は、モネが生涯をかけて追求した「睡蓮」の連作が持つ装飾性、すなわち鑑賞空間全体を彩る「大装飾」としての意図を体現するものです。 彼は、水面の情景が「地平線も岸辺もない無限の全体」であるかのような錯覚を与えることを意図していました。 このタペストリーは、絵画作品が持つ芸術的価値だけでなく、空間を構成する装飾美術品としての役割も担い、観る者を包み込むような没入感を室内に再現しようとしたモネの野心を、異なる形で示しています。

「睡蓮」は、印象派の代表作であると同時に、20世紀の抽象表現主義などの後続の美術運動にも大きな影響を与えました。 この毛織物の《睡蓮》は、モネが目指した装飾性や空間性への関心が、絵画という枠を超えて展開されたことを示す貴重な作品であり、「室内」というテーマで印象派の新たな魅力を提示する今回の展覧会において、その意義が再認識されることでしょう。